日経平均急落の原因は日銀植田総裁の利上げではない

さて、日経平均が下落している。今や株式市場には株価は上がり続けるものだと思っている人が大半となっているから、SNSが騒がしい。だがここでは株価下落の理由を冷静に分析してゆきたい。

下落している日本株

まずは日経平均のチャートから掲載しよう。

下がってはいるのだが、今年の上げ幅を考えるとそれほど下がっているわけでもない。

だが株価が上昇する時に理由があるように、株価が下落する時にも理由がある。

ではいま日本株が下落している原因は何なのか?

日銀の利上げ

最近の出来事を時系列順に並べると、まず植田総裁率いる日銀が7月31日に利上げを行なっている。

しかも単に利上げを行なっただけではなく、今後も引き続き利上げをするという示唆をしている。

その日、日経平均は上昇して終わった。それに対して筆者は上の記事でこう書いておいたことを思い出したい。

植田氏は確かに「引き続き」と言っている。つまりこれからも利上げするということである。

だが正直筆者は日本経済がそれに耐えられるとは思えない。何度も言うが、日本経済は既にマイナス成長なのである。

会合後の日経平均は、むしろ上がってる。だが筆者は日本経済の展望にかなり警戒している。本当に大丈夫だろうか。

日本の実体経済

世間ではこの植田総裁の利上げが株価下落の原因だと言われている。利上げ当日は株価は上がったのに、今頃になってそれが原因だというのか。都合の良い話である。

筆者の当日のコメントに話を戻すと、筆者の論点の背景には日本の実体経済の状況があった。

そしてそれは、インフレはそれほど収まっていないにもかかわらず、経済成長率はほとんど景気後退の水準だということである。

日本の実質GDP成長率のグラフを載せると次のようになっている。

順調に下落していて、誰も気にしていないが既にマイナス成長に陥っているのである。このグラフは改定前のものなのだが、改定後には更に悪化していて成長率は-0.8%となっている。

このまま行けば景気後退(定義上今のところはギリギリで逃れている)を避けることは難しいだろう。一番の原因は個人消費の減速であり、個人消費は既に-2.0%のマイナス成長である。

株価下落の本当の原因

さて、筆者は7月31日に、この状況で利上げをしても大丈夫なのかと書いた。つまり、景気減速と利上げという株価にマイナスな2つの要素を指摘したことになる。

では今回の株価下落の原因となっているのはそのどちらなのか?

その問いは経済データを論理的に考える読者には明らかだろう。景気減速である。金利上昇が株価に影響を与えたはずがないことは、金融市場を見ればすぐに分かる。

確かに「もし利上げが引き続き行われれば」日本経済は大きな痛手を受けるだろう。だが筆者と同じ理由で金融市場はそんなことが出来るとは信じていない。

だから長期金利は上がっていない。以下が日本の長期金利のチャートだが、もう2ヶ月も上がっていないのである。

金利が上がっていない以上、金利上昇が株価下落の原因であるわけがない。それだけのことである。

結論

では何故日本株は下がっているのか? 何度も言うが、景気後退が避けられない場合、株価の下落もまた避けられないからである。それについては以下の記事で検証しておいた。

日本株はその事実をほとんど無視しながらここまで上がってきた。日本経済の減速など誰も気にしていなかった。

仮に植田総裁が利上げしなかったとしても日本経済の減速はどうにもならないだろう。その原因は個人消費の減速であり、それは円安による輸入物価インフレが引き起こしていることだからである。

逆に植田総裁が金融緩和をしたとしても、円安が酷くなってしまうので個人消費の減速原因がむしろ悪化する。

だからインフレが発生してしまった時点でこの状況は避けられなかったのである。日本経済はここから景気後退、失業増加へ向かってゆくことになる。

あえて原因を上げるとすれば、円安政策によって円安を引き起こした黒田前総裁だろう。20世紀最大の経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏が『貨幣論集』で予言していた以下の言葉が思い出される。

将来の失業について責められる政治家は、インフレーションを誘導した人びとではなくそれを止めようとしている人びとである。

まさにそれが起きようとしているということである。


貨幣論集