トランプ前大統領の原油価格押し下げ公約は実現可能か

これまでの記事ではアメリカ大統領選挙におけるドナルド・トランプ前大統領の政策を紹介してきたが、その中でももっとも重要と思われる原油価格を下落させる公約についてもう少し深く検証してみたい。

トランプ氏と原油市場

大統領に再選した場合のトランプ氏の政策でもっとも重要と思われるものが原油価格に関する政策である。

トランプ氏はまずインフレを高金利ではなく原油価格の下落によって押し下げようとしている。

金利はどうしても下げたいらしい。そこで原油価格が下がればエネルギーや石油化学製品のコストが下がり、物価減速に繋がるというわけである。

また、トランプ氏はロシア・ウクライナ戦争を即座に終わらせることを公約にしているが、プーチン大統領と交渉するために重要な要素が原油価格だと主張している。

原油価格が低ければ産油国であるロシアは資金難に陥り、戦争終結に同意したくなるという理屈である。

アメリカは原油価格を下げられるのか?

ここまでの理屈は通っているのだが、ここで問題になるのがトランプ氏が原油価格を下げられるのかということである。

確かにアメリカでは現在バイデン政権による脱炭素政策が行われており、アメリカの産油企業は化石燃料の採掘をフルに出来ない状況に置かれている。

だからこれを解除すれば、アメリカの産油企業はフルに原油を産出できるようになり、供給増で原油価格は下落する。

だが、原油価格はそれでどれだけ下がるのだろうか?

原油価格の下落余地

まずアメリカは世界の原油の生産のどれだけを担っているのか。2023年の世界の原油生産のランキング(1日平均)は以下のようになっている。

  • 米国: 1,326万バレル
  • ロシア: 1,013万バレル
  • サウジアラビア: 895万バレル
  • カナダ: 500万バレル
  • イラク: 438万バレル

世界全体の生産量は8,180万バレルだから、アメリカは世界の生産量の16%を担っていることになる。

では、アメリカは世界の16%を占める自国の生産量をどれだけ増やせるのか。普段アメリカの原油生産がどれだけ上下するものなのかを見るために、毎年のアメリカの原油生産(1月の1日平均)を並べてみると次のようになっている。

  • 2017年1月: 887万バレル
  • 2018年1月: 1,000万バレル
  • 2019年1月: 1,187万バレル
  • 2020年1月: 1,285万バレル
  • 2021年1月: 1,114万バレル
  • 2022年1月: 1,148万バレル
  • 2023年1月: 1,257万バレル
  • 2024年1月: 1,255万バレル

アメリカの原油生産量は2010年頃からほぼ毎年増えているのだが、トランプ氏からバイデン氏に大統領が変わった2021年1月を境に伸びが落ち込んでいることが分かる。

勿論コロナもあるのだが、トランプ政権の頃は毎年10%程度原油生産が増えていた。それが脱炭素政策がない場合のアメリカの産油企業の本来の姿だと言うべきだろう。

トランプ氏は原油価格を下落させられるか

だが、仮にトランプ氏がアメリカの原油生産を10%から30%程度増やしたとしても、世界の生産量を1.6%から4.8%増加させるに過ぎない。

それでは原油価格を最大でも5%下落させるに過ぎないのであって、それは現在の原油価格の4ドルに満たないが、それがどれくらいかは原油価格のチャートを見ればすぐに分かる。

結論

だからアメリカ単体で原油価格を大幅に下落させることはかなり難しいだろう。トランプ氏は明らかにサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王子の助けを必要としている。

アメリカとサウジアラビアの生産量を足せば世界全体の27%となり、OPEC全体を足せば数字は当然もっと上がる。更に言えば、産油国はそのほとんどが中東諸国やBRICS諸国で構成されている。

アメリカによるウクライナへの関与を終わらせるためだと言えば、どちらかと言えばロシアに同情的な中東やBRICS諸国の協力を取り付けることも不可能ではないだろう。

だがこの考察ではっきりしたのは、トランプ氏が原油価格を押し下げるためにはアメリカ単独では難しく、広範囲な外交政策が必要になりそうだということである。

そこまでしてトランプ氏は原油価格を下げられるのか。それがインフレの動向にも影響するのである。