レイ・ダリオ氏: トランプ前大統領が暗殺されればアメリカは内戦になっていた

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログでトランプ前大統領の暗殺未遂事件とその後の展開について語っている。

トランプ氏暗殺未遂事件

ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で説明しているように、ダリオ氏はアメリカの覇権は徐々に寿命に近づいていると考えており、国家の覇権の終わり頃には経済の減速と政府債務の増加、そして政治的対立が起きやすいと論じている。

移民問題などで世論が2つに割れて以来、ダリオ氏は西洋諸国の政治が国の寿命の末期に起きるものだという風に説明し、そうした状況はいずれ戦争や内戦に発展する可能性が高いと予想してきた。

誰も戦争など起こるとは思っていなかった。だがそこに先ず起きたのがロシア・ウクライナ戦争であり、そして今回のトランプ氏暗殺未遂事件である。

ダリオ氏は次のように述べている。

トランプ氏の暗殺未遂はアメリカを内戦の1ミリ手前まで近付けた。もし実現していたら民衆の怒りと暴力によって両方の政党のリーダーは吹っ飛び、国のリーダーが誰かを決める道筋は見えなくなるというカオスな状況が起こっていただろう。

生き残ったトランプ氏

だがトランプ氏は生き延びた。しかもそれはトランプ氏に有利に働いた。銃弾に撃たれた直後のトランプ氏の写真がこれである。

銃弾を受け、シークレットサービスに制止されながらガッツポーズをするこの写真は多くのアメリカ人に大きな印象を与えたようであり、トランプ氏を神格化するような表現もSNSでは見られる。

ダリオ氏は次のように述べている。

暗殺は成功せず、一部の人によれば「奇蹟によって」トランプ氏とアメリカは「神の加護」を受け、トランプ氏はほとんどの人に対して強いファイターという印象を与えた。貧弱なジョー・バイデン大統領とは驚異的な差だ。

ダリオ氏はブログの最初で自分は状況の描写に注力し、意見や価値判断は交えないと書いている。括弧付きで書かれている通り、それは共和党支持者の一部の考えを説明したものだというスタンスなのだろう。

だがそれでも最近のダリオ氏は共和党寄りのように見える。その後開かれた共和党の大会についてダリオ氏は次のように続けている。

共和党の大会で共和党は、強く、団結し、思慮深い人物に率いられた愛国的で理解ある党というイメージを打ち出すことに成功した。

それは数週間前までの「錯乱した過激派」と「裕福なエリートとビジネスマン」が現在のアメリカを作り上げたこれまでのやり方を繰り返そうとしている党というイメージとは違った。

ここまではまだ客観的な書き方だ。暗殺未遂の後の演説ではトランプ氏はアメリカ人の団結を訴えており、それは左派のメディアでもそう報じられていた。

だがダリオ氏の文章は次のように続く。

党大会ではトランプ氏は明らかに周囲の共和党の人々に愛されていて、多くの視聴者に対しても愛すべき人物に見えただろう。

トランプ氏がブースで孫娘を膝に乗せている家族写真など、党大会で見られたイメージは、一部の視聴者にトランプ氏は神と国のために人々の肩の上にリーダーとして運ばれてきた愛すべき現人神のような印象を与えた。

内戦勃発の可能性

これは共和党支持者の感想なのか、それともダリオ氏の感想なのか。以下の記事における民主党に対する批判もそうだが、中立性を重視するダリオ氏には珍しく、最近の彼は共和党寄りになっているように見える。

ともかくトランプ氏は生き延び、しかも支持者の支持は強まった。

だがダリオ氏はそれこそがアメリカが内戦に陥る可能性を高めると見ている。ダリオ氏はこう説明する。

トランプ氏を失う可能性は減ったが、ゼロになったわけではない。そしてもしそれが起きれば大きな争いになる可能性はむしろ高まったと言うべきだろう。

今や多くの共和党支持者にとって、民主党がトランプ氏の当選を否定することは彼らがキリストの再来を否定することに等しいからだ。

結論

最初に述べたが、ダリオ氏はこうしたカオスな状況をウクライナの前から予想し続けていた。具体的な出来事を予想したわけではないが、ダリオ氏はウクライナの戦争やトランプ氏の暗殺未遂を予想したと言うべきだろう。

そしてこういう出来事は金融市場のように、小さな上下を繰り返しながら大きな波に繋がってゆく。

そういう見方で見れば、確かに状況はより危機的なクライマックスに向けて進んでいるように見える。大きく上昇した相場が簡単に大きく下落するように、大きく片方に傾いた天秤は、簡単に逆方向に大きく傾くからである。

そして長期トレンドは個々の出来事にはさほど影響されないだろう。古い記事だが以下の記事に纏めているので、そちらも参考にしてもらいたい。


世界秩序の変化に対処するための原則