サマーズ氏: 米国に株安・ドル安・金利高騰が一気に来る可能性

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで11月の大統領選挙後の金融市場について語っているので紹介したい。

11月のアメリカ大統領選挙

11月のアメリカ大統領選挙が近づいているが、現職のジョー・バイデン大統領が自身の年齢問題からようやく出馬撤回を表明したことによって、民主党では副大統領のカマラ・ハリス氏の名前が上がっている。

いずれにしてもトランプ氏も民主党も有権者の興味を惹くために必死である。アルゼンチンのミレイ大統領を除いて、政治家は選挙の前後にばら撒きをやりたがるだろう。

アメリカの財政赤字

コロナ前まではどれだけばら撒いても問題がないように見えた。だがコロナ後の現金給付によって物価が高騰して以来、識者たちは新大統領の政策がインフレを再燃させることを心配している。

サマーズ氏は大統領選挙後の政策について次のように述べている。

財政政策のリスクを甘く見ている兆候が政治家たちの間で見られる。民主党も共和党もそうだが、特に共和党の方に深刻な楽観が見られる。

防衛費であれ減税であれ、共和党は財政赤字を増やす政策ばかり議論している。そして財政規律を示唆するような話は一切出てこない。

サマーズ氏はクリントン政権で財務長官も務めた民主党の支持者だから、それは差し引いて考えなければならない。

特に現在のインフレに関してバイデン氏とその前職のトランプ氏のどちらに責任があるかと言えば、以下の記事で検証したが7:3でバイデン氏だろう。

だがトランプ氏が減税を公約にしているのは事実である。金利を上げてインフレを抑えるという考えも、トランプ氏には無いようだ。

忍び寄る米国債の危機

サマーズ氏を含む多くの識者が今年に入ってから財政問題を非常に気にしていることには理由がある。

それはコロナ後の金利上昇によって莫大なアメリカの政府債務に利払いが発生していることである。

これまではほぼゼロ金利だったので、借金がどれだけあっても利払いはほとんど生じなかった。だが今では4%台の金利が米国債には付いてしまっている。

結果、アメリカ政府の利払い費用(GDP比)は次のように急増している。

だからアメリカ政府は今、借金の利払いのために借金を増やさなければならない状況である。

米国債の下落

それで多くの著名投資家が懸念しているのは、新大統領が新たな借金を伴う政策を発表したとき、国債市場が臨界点に達するのではないかということである。

米国債が破綻するまでレイ・ダリオ氏は5年、ポール・チューダー・ジョーンズ氏は年内という予想をしている。

ドルの下落と米国債

だからそれ自体は新しい話ではない。だが今回サマーズ氏は、トランプ氏がドルを下落させる政策に言及したことに反応している。

サマーズ氏は次のように言っている。

彼らは同時にドルの為替レートを下げるような話もしているが、アメリカはそれによって国債を売ることが難しくなるだろう。

そうした政策はアメリカをリズ・トラス氏の状況に追いやるための下準備だと言える。

サマーズ氏は、トランプ氏がドル安政策を実行すれば、それが同時に米国債を下落させてしまう可能性に言及している。

リズ・トラス氏は少し前のイギリスの首相で、ばら撒き政策を宣言したことでポンドと英国債と英国株を軒並み急落させ、短期間で辞任に追いやられた人物である。

アメリカもそうなってしまうのだろうか。

結論

日本にもドル高と高金利に惹かれてドル預金を考えた投資家がいるだろう。預金は最終的には国債市場に投資されているから、もしドル相場が反転するとき、それは国債市場からも資金が流出することを意味する。

もし米国債が下落すれば、国債の価格下落は金利上昇を意味するので、それは株式市場にとってもマイナスとなる。

そうすればドルと米国債と米国株の同時安が実現してしまうことになる。それはドルの強さを当てにしてアメリカに投資していた日本の投資家にとっては最悪のシナリオだろう。

ちなみにドルと米国債の関係についてはゾルタン・ポジャール氏の記事に詳しいので、そちらも参考にしてもらいたい。