前回の記事では米国株について取り扱ったが、今回の記事ではドル円である。より厳密に言えば、ドル円を眺めていて少し気になったことを共有しておきたい。
ドル円とアメリカ長期金利
アメリカの長期金利の年始の状況としては、一旦2.6%を超えた年末の高値からやや後退して推移している。
しかしこれをドル円のチャートと比べてみると、ドル円の方は下落の後やや反発している状況が読み取れる。
日銀が市場からほとんど無視されている状況は何も変わっていないから、ドル円は短期的にはアメリカの金利のみに反応して動いているはずである。しかしながら、実際の状況としては長期金利よりもドル円の方が多少力強い動きとなっている。
トレーダーは日々様々なチャートに目を通し、こうした微妙な差異から市場で何が起こっているのかを読み取るわけだが、上記のドル円と長期金利の違いからは恐らく二つのことが読み取れるのではないかと思う。
先ず一つにはドル円を空売りしていた投機筋が踏み上げられており、その損切りが恐らくはまだ続いているということであり、そしてより重要なのは、量的緩和によって大量に刷られた円や、低金利によって投資先に困った日本の家計、いわゆるミセスワタナベの資金が、トランプ相場でドル建て資産という投資先を見つけたことで、単なるドルの現金保有(ドル円の買い)も含め、米国市場へと流出しているということである。
トランプ相場における投機的な資金の流れ
こうした資金の投機的な流れに着目することは、今後より重要になってくるだろうと思う。何故ならば、このままアメリカの金利上昇が続いた場合、今のところは上げ相場になっている米国株が長期金利上昇の悪影響にいつ反応し始めるかということは、今後GDP統計などの経済指標に影響が現れ始めるまでの何ヶ月かの間、ほとんど米国市場への資金の流入量、つまり流動性を読み取り予測する作業になるからである。
世界最大のヘッジファンド、Bridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏も、資金の流れに注目することの重要性について話していた。以下の記事を思い出したい。
もしトランプ政権によって経済のなかで金が回るサイクルが出来上がるとすれば、ほとんど何も金利の付かない現金からリスク資産への資金流入は膨大なものになるだろう。
そして資金流入について言えば、投資家が不遇な環境から快適な環境に逃避する速さは相当なものだ。スペインやアルゼンチンの債務危機において資金がどれだけ素早く逃避し、そして戻ってきたかを覚えているだろうか?
こうした動きは勿論アメリカ国内だけの話ではなく、世界中の不遇な資産クラス、例えば金利の付かない円を持った日本の家計などから、アメリカへと資金が流入しているのである。
資金の流れとトレード戦略
また、資金の流れを読み取ることは、トレード戦略を考える上でも役に立つだろう。ドルの金利上昇に賭けると一言で言っても、10年物米国債を買う方法だけではなく、ドル円を買う方法や、ゴールドを空売りする方法、あるいはドル円上昇の恩恵を受ける日本株を買う方法など様々考えられる。
こうした資産クラスの投資家は、それぞれの投機的事情を抱えている。投資先に飢えた日本の富裕層や、これまでに蓄積したドル円の空売り、あるいは逆にある程度マクロ経済学的に理性的に動く国債市場など、それぞれの市場にそれぞれの事情があり、同じ予想に賭けるにしても、どの資産クラスを実際に売買するのかということは流動性を予想する話なのである。そしてより重要なのは、今資金の好循環が出来ている資産クラスは、その資金が投機的なものであればあるほど、逆流した時も勢いが強くなるということである。
結論
ドル円そのものの水準について言えば、長期金利が理論的には2.7%か3.0%に近い水準が妥当ということを考えれば、理論的にはもう少しの上昇余地があり、ジム・ロジャーズ氏の言及した120円超えという可能性も理論値としては妥当だろう。彼の「有り得る」という表現はその意味で正しい。
一方で、実際の動きとしては、米国株が下がる場合にはリスクオフでアメリカの長期金利が低下し、ドル円も下方向へ逆戻りとなる可能性がある。だからドル円は長期金利の理論値マイナス米国株がどれだけ下がるかという基準で考えるのが良いだろう。米国株については前回の記事で取り上げた。
また、トランプ大統領の就任式が1月20日にあるが、もしトランプ氏が実際には金利上昇のリスクを重く考えているとすれば、就任以後は金利について意見を表明する可能性が出てくる。レーガノミクスでは金利上昇の悪影響はかなり大きいものだった。
ただ、就任前はまだオバマ政権なので、オバマ氏のために金利を下げるような発言をして、敵に塩を送るような真似はしないということである。だから金利の話をするとすれば就任後である。就任式後のトランプ氏の発言には注意したい。