パウエル議長、中央銀行の議長職について語る

アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)のジェローム・パウエル議長がワシントンの経済クラブでのインタビューで、Fed議長の仕事について語っている。

Fedの議長

以前の記事では、このインタビューのうち今後の利下げについて語っている部分を取り上げている。

その記事では言及しなかったが、このインタビューの司会者デイヴィッド・ルービンシュタイン氏はPEファンドであるThe Carlyle Groupの共同創業者であり、つまり中央銀行家になる前にCarlyleで働いていたパウエル議長の以前の上司にあたる。

今回はFed議長の仕事についての話なのだが、ルービンシュタイン氏はユーモアのある人物で、パウエル氏に友人との食事の際に金利について考えていることを気取られないためにはどうするのか、「利下げする?」と聞かれたらそのままご飯を食べ続けるのか、と尋ねている。

パウエル氏は冗談を交えて次のように答えている。

金利について尋ねない人のことを友人と呼ぶことにしているんだ。

でも通常、友人たちは政策について尋ねない。通りすがりの人にはよく「やあ、利下げしてよ」と言われるが。今朝もエレベーターの中で言われた。

Fedの仕事で学んだこと

通りすがりの人に利下げを頼まれる以外に、中央銀行のトップとはどういう仕事なのだろうか?

パウエル氏は議長の仕事について次のように包括している。

Fedの議長は素晴らしい仕事だと思う。

理由は、議長でいることによって多くのことを学べることである。

パウエル氏は前の前の議長であるベン・バーナンキ氏について次のように言っている。

バーナンキ議長の最後の仕事の日、わたしは彼に会いに言った。その時彼はわたしに「Fedの議長は多くの学びがある仕事だ」と言った。

ベン・バーナンキ氏はFedの議長になる前から金融論で世界で5本の指に入る経済学者だった。Fedの議長として彼がたくさん学んだとしたら、わたしにどれだけ学ぶことがあったか想像してほしい。

リーマンショック後の低金利政策で政府債務の膨張を助け、現在のアメリカ政府の利払い急増の直接の原因となっているバーナンキ氏を世界で5本の指に入る経済学者と呼ぶかどうかは別として、パウエル氏は経済学者ですら無かった。

パウエル氏は中央銀行家になる前までは企業買収などを行うCarlyleに居たため、彼はマクロ経済ではなくてミクロの専門家で、経済全体についてはほとんど何も知らなかったが、単に共和党員だという理由でトランプ前大統領に議長に任命されたのである。

パウエル議長の成長

だからパウエル議長は議長職に就いてから大きなミスを2回犯している。1回目は2018年に自分の金融引き締めで株価を暴落させておきながら、自分は原因ではないと言い張ったことである。

だが筆者を含め投資家は皆株価下落の原因を知っていた。

そして2回目は2021年に既に上がっていたインフレ率を無視して、インフレは一時的だと無根拠に言い張り、利上げを拒否したことである。

だが中央銀行のトップは在職中に学ぶ。何も学ばなかったのは黒田東彦氏くらいではないか。フィリップス曲線という経済学上の骨董品に拘っていたジャネット・イエレン前議長もキャリア終盤には旧時代のマクロ経済学を捨て、ラリー・サマーズ氏の経済学を受け入れようとしていた。

そしてインフレには早期から対処しなければ手遅れになるということを理解しなかったパウエル氏は、金融政策の波及効果にはタイムラグがあるということを理解しつつある。

ここ1年間、インフレの先行きには様々な意見があった中で、パウエル氏は利上げも利下げもしなかったが、結果としてインフレ率は少なくとも今のところ2%に戻りつつある。

それはタイムラグを理解したパウエル氏が金利とインフレ率の関係を最大限上手く進めようとした結果である。

だが経済減速はインフレが収まってからが本番である。

だから、ここから経済が悪化しないわけでもなければ、11月に新たに決まる大統領がインフレを再燃させないわけでもない。

だがそれはパウエル氏の責任ではないだろう。

そもそも、中央銀行が金利を恣意的に操作していなければ金利は自然とインフレを抑制する水準に収束してゆくのだから、議長の手腕を心配する必要もないのだが、その無理な仕事を人の頭でやったという前提ではパウエル氏はここ1年出来る限りのことをやってきた。

トランプ氏は最近のインタビューで、パウエル氏の任期である2026年までパウエル氏に議長を任せることを明言した。パウエル氏が残りのキャリアを綺麗に終わることが出来るかどうかは、次の大統領のインフレに対する態度次第だろう。