6月米国雇用統計、失業率が3ヶ月連続上昇で景気後退は不可避の水準

さて、今月も世界中の投資家が注目するアメリカの雇用統計が発表された。アメリカ経済は弱っているのか? それともインフレが再燃しつつあるのか。

上昇を続ける失業率

まずは失業率だが、米国株が史上最高値を更新し続ける中、失業率だけがアメリカ経済に赤信号を灯し続けている。

6月の失業率は4.1%となり、前月の4.0%から上昇した。これで3ヶ月連続の上昇となる。

これまでは緩やかな上昇という感じだったが、上昇が加速しているように見える。

実際、それは見えるだけではない。多少面白いのが失業率の前年同月との差であり、それは失業率が1年前からどれだけ上がったかを示すのだが、そのチャートは次のようになっている。

このチャートが上がっているということは失業率の1年前との差は広がっているということであり、つまりは上昇が加速しているということである。ちなみに現状では失業率は1年前から0.5%上がっている。

失業率がある程度上昇すれば景気後退になるというのが金融市場の経験則である。そして景気後退になった場合に株価がどうなるかは以下の記事で検証した。

だがどの程度上がればそうなるのか? 上記のチャートを100年近くにわたって検証してみれば、失業率の上昇が前年との差で0.5%以上に達した場合、景気後退を逃れられたケースは戦後1度もない。

だから失業率は既に景気後退を逃れられない水準にあるのである。

なかなか減速しない賃金

失業率はなかなかのニュースとなってきたわけだが、ひとまず脇に置いて次は賃金を見よう。

失業率がアメリカ経済の減速を示す中、雇用統計の中でインフレにかかわる平均時給はどうなっているのか。

平均時給は前月比年率で3.5%の上昇となり、前月の5.3%から減速した。

だが平均時給の場合は前月との比較はあまり意味がなく、トレンドを見る必要があるが、ひと月のデータで大きく下がったり上がったり見える場合にも次の月には戻しており、トレンドとしてはかなり緩やかな下落をもう3年ほど続けている。

この緩やかさは根強いインフレに繋がっている。インフレ率がなかなか下がって来ない理由の1つは、特にサービス業にとって大きなコストである賃金がなかなか減速しないからである。

アメリカ経済の行方

ということで、失業率は悪化、平均時給は進展なしという雇用統計となった。

当然これは緩やかなスタグフレーションという、筆者がこれまで予想し続けているシナリオを示している。インフレ率は少なくとも経済成長率が下がるほどには下がってくれない。

これは今のあいだは問題がないように見える。インフレ率がやや高く、経済成長率が平凡であるあいだは緊急事態には見えない。

だがこれがそのまま両方下がったとき、アメリカ経済は景気後退であるにもかかわらずインフレ率が下がって来ない状況に陥る。そしてその状況で景気対策の緩和を行えば、アメリカ経済はインフレ第2波へと向かってゆくのである。

結論

それがアメリカ経済がいま自律的に向かって行っている方向である。だが今年は11月にアメリカ大統領選挙がある。

第1回討論会の結果を見る限り、バイデン氏よりトランプ氏が優勢である。

そしてトランプ氏はバイデン氏の2021年の現金給付を批判しながらも自らも減税を公約にしている。

11月まではアメリカ経済は緩やかな減速を続けるだろう。だが11月までに実体経済が落ち込んでいればいるほど、それはトランプ氏に大規模な景気対策をやる口実を与える。

だからアメリカ経済は下がってから上がるだろう。それがインフレを引き起こし、米国債を暴落させる可能性は大いにある。

トランプ氏は一応状況を理解しており、それを引き起こさないギリギリの緩和を狙うだろうが、果たしてどうなるだろうか。いずれにせよ金利は長期的に上昇方向である。