11月のアメリカ大統領選挙を控え、アメリカの株式市場は史上最高値を更新し続けている。
それは大統領選挙の結果を織り込み始めてのことなのかもしれないが、債券市場の方はまだそれを織り込んでいるとは言えなそうである。
大統領選挙前の株式市場
最近のインフレ統計がインフレ減速方向に推移しているため、市場では金利に対する警戒感は減っている。金利上昇に怯えていた株式市場ももはや警戒しなくなった。
S&P 500のチャートは次のように推移している。
これは11月に決まる新大統領が経済対策を行なうことをある程度織り込んでいると言って良いだろう。
投資家は情報が織り込まれる前にポジションを仕込まなければ利益を得られないので、今の状況の株式市場は美味しいとは言えない。
だが他の市場を見渡せば、明らかに大統領選を織り込んでいない市場がある。債券市場である。
まだ動いていない債券市場
ここのところ債券市場はあまり動いていない。債券の価格は金利と連動するので、それは金利があまり動いていないことを意味する。
だが株式市場が新大統領の経済対策を期待して上昇するならば、債券市場でもインフレ期待を織り込んで金利が上がらなければならないはずである。
実際、金利の状況は今どうなっているのか。金利の水準を調べるためにはまず短期金利から考えるのが筋である。2年物国債の金利は次のように推移している。
一直線で上がってゆく株価に対して金利はここ数ヶ月あまり動いていないのだが、強いて言えば最近の弱いインフレ指標を織り込んでやや下落傾向である。
今年の利下げ
4.6%という2年物国債の金利水準はどうなのか。短期金利の水準を考えるためには、市場が何回の利下げを織り込んでいるのかを考えれば良い。
金利先物市場は年内に2回の利下げを織り込んでいる。もし大統領選挙がなければ、それは正しい選択かもしれない。緩やかな下落を続けているインフレ率に対し、2回の利下げはある程度妥当だろう。
だがバイデン氏とトランプ氏のどちらが勝つにしても、大統領選挙後に新大統領は経済対策をやりたがるだろう。以下の記事で取り上げたように、少なくともトランプ氏は減税を公約にしている。
減税は明らかにアメリカ経済にインフレ的な効果をもたらすだろう。第1回討論会の結果を見る限り、大統領選挙ではトランプ氏が優勢となっている。
減税と利下げの効果
ここで考えてもらいたいのが、今年2回の利下げをした後にトランプ氏の減税があったら、アメリカ経済はどうなるかということである。
それは明らかにインフレ的な結果をもたらす。実際、2016年の相場ではトランプ氏の当選後にアメリカの金利は上がっている。
だから2回の利下げを織り込んで下がっている金利は、それ自体が矛盾しているのである。減税とともに2回も利下げをすれば、結局インフレをもたらして金利は上がるだろう。
以前も述べたが、米国債の大量発行で供給過多になっている国債市場がインフレを織り込むとき、一番負荷がかかるのは恐らく30年物国債である。30年物国債の金利は次のように推移している。
30年物国債はトランプ氏による財政赤字増加に耐えられるだろうか。
これから雇用統計やCPI(消費者物価指数)の発表がある。11月まではインフレ減速的な指標が出る可能性もあるが、それで金利が下がれば下がるほど11月以降の相場は金利上昇になってゆくだろう。グローバルマクロの投資家が活躍できる相場になってきたことを嬉しく思う。