世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がLSE SU Alternative Investment Conferenceのインタビューで現在のインフレと高金利の問題が最終的にどのようなシナリオに繋がってゆくのかを解説している。
インフレと金利上昇
コロナ後にアメリカや日本で行われた現金給付がインフレをもたらして以来、世界中で金利が上がっている。アメリカでは今、大統領選挙でバイデン氏とトランプ氏がインフレの責任を押し付け合っている。
アメリカ国民は物価上昇の不満を政治家に向けているが、多くの機関投資家は金利上昇の方を心配している。
インフレも金利上昇ももう何十年も起こったことがなかったことであり、それがどういう結果を生むのか理解していない人が多い。
だがダリオ氏は世界有数のヘッジファンドマネージャーであり、ファンドマネージャーの仕事は金融市場の未来を予想することである。
多くの人が経験したことのない事態をダリオ氏はどう予想するのか。ダリオ氏は次のように述べている。
これまでのわたしの人生で起こらなかったようなことでも、それより以前には起こっている場合がある。
だからダリオ氏は金融史を研究する。日本やアメリカのように大量の負債を抱えた大国がインフレと高金利に直面するとき、その国はどうなるのか。歴史には答えがあるからである。
国家と債務のサイクル
ダリオ氏は次のように問いかける。
債務の増加に限界はあるのか? 債務と貨幣はどういう仕組みで出来ているのか? 今どういう状態なのか? そしてこれから何が起こるのか。
だが歴史上、大国が巨大な債務を抱えるようになるのはいつものことである。
どの国も最初は若く、高成長で、借金もなかった。だが国は次第に大きくなり、老いていって借金に頼った経済成長を好むようになる。
ダリオ氏はそうした国家のサイクルを単純化して次のように説明している。
サイクルはこうだ。まず信用を創造する。つまり使えるお金を借金で増やす。それで人はものを買える。物価が上がる。株価も上がる。景気が良くなる。
だが信用創造は負債を生む。そして債務は逆の効果を持っている。何故なら、信用が増えれば収入以上の支出ができるが、それが負債になれば収入より少ない消費しか出来なくなる。
普通の人ならば、そのサイクルはそれほど長くない。借金を返さなければならない時はやってくる。その時には消費ができなくなる。
だが国家の場合、その「ツケを払う瞬間」を先送りにすることができる。ダリオ氏は次のように言っている。
だが中央銀行は紙幣や信用をどんどん作ることができる。それが積み上がると債務に対する利払いがどんどん大きくなる。そして負債が収入に比べて大きくなってくる。
実際、アメリカや日本は中央銀行の紙幣印刷を資金源として国債を大量に発行し、GDPの100%以上(日本は200%以上)の政府債務を抱えるまでになっている。
だがそれも低金利が続けられた間は大した問題にはならなかった。何故ならば、借金に対する利払いがなかったからである。
だが2024年現在、多くの機関投資家が懸念している問題がある。金利が上がってしまったことである。
巨大な政府債務の利払い
低金利は永遠には続けられない。それは20世紀の大経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏が『貨幣発行自由化論』で予言していたことである。ハイエク氏は次のように書いていた。
金融政策は不愉快なジレンマに陥ることになる。緩やかなインフレによって実現された経済活動の水準を維持するためには、インフレ率が期待された水準まで上がってしまうと更に高いインフレ率を目指さなければならなくなる。
もし紙幣印刷がインフレをもたらさなかったとしても、その事実を知った国民や政治家は「紙幣印刷は問題なかった」と考え、更に大規模な紙幣印刷に頼るようになるだろう。
だからインフレが起きない限り、最終的には紙幣印刷はインフレを引き起こす規模まで必ずエスカレートしてゆく。
そして実際、コロナ後の現金給付がインフレを引き起こした。それがハイエク氏が何十年も前に予言したインフレ政策の結末なのである。そしてインフレを抑えるために金利を上げざるを得なくなる。
あとはダリオ氏の議論に任せよう。ダリオ氏はこう続けている。
すると収入の大きな部分を債務の利払いが占めるようになる。
債券市場に債券が増えすぎたとき、中央銀行が介入して代わりにそれを買わなければならなくなる。
アメリカ政府の支出は既に国債の利払いに圧迫されている。それで更に国債を発行しなければならないが、国債の大量発行に国債市場が耐えられなくなる。
だから中央銀行が国債を買うしかない。だが中央銀行が紙幣印刷で国債を買えば、既に起こってしまっているインフレが悪化してしまう。
ここで中央銀行は、それでも紙幣印刷してインフレを悪化させるか、国債買い入れを断念して国債を暴落させるか、どちらかを選ばなければならなくなる。
ダリオ氏はこう続ける。
そして買い入れを続けられなくなったとき、何らかの形での債務再編が必要になる。
デフォルトか、債務減免か、返済延期か、更なる紙幣印刷だ。
つまり、国家のデフォルトか無制限のインフレか、結末はどちらかしかないとダリオ氏は言っているのである。
結論
これは日本にもアメリカにも言えることである。
アメリカでは金利が5%まで上がり、国債の利払い費用が急上昇している。そのためアメリカの財政は5年以内に破綻しかねないと見積もる機関投資家が出ている。
一方で日本では長期金利はまだ1%までしか上がっていないが、政府債務の規模はアメリカの倍近いため、金利上昇の悪影響はアメリカのほぼ2倍である。
しかも日本には円安という更に厄介な問題がある。日銀の植田総裁は利上げせずに円安を放置するのか、利上げして日本経済を殺すのかの選択を迫られている。
どちらも地獄である。何故人々はインフレ政策を支持したのか。インフレとは物価上昇という意味だと知らなかったのか。人々はインフレを自分で望んだのである。
貨幣発行自由化論