トランプ氏、自分の経済政策がインフレを再発させるというサマーズ氏の批判に反論

今年のアメリカ大統領選挙で再選を目指すドナルド・トランプ氏がAll-in Podcastのインタビューで経済学者ラリー・サマーズ氏の批判に反論している。

サマーズ氏のトランプ氏批判

11月の大統領選挙が近づいてきたので久々にトランプ氏の記事である。

さて、少し前にアメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がトランプ氏の政策を批判していた。

内容は、トランプ氏が当選して公約通り関税を上げて減税を行えば、ようやく落ち着いてきたアメリカのインフレを再び悪化させるものだというものである。

サマーズ氏への反論

今回、インタビューでサマーズ氏の主張について聞かれ、トランプ氏は次のように答えている。

まずわたしはラリー・サマーズ氏を非常に尊敬していると言わせてほしい。彼の主張は正しいことが多い。ある種のことについてオバマ氏やバイデン氏が間違ったようなことでもサマーズ氏の言ったことが正しかった。ある種のことについてだ。

だからサマーズ氏には十分敬意を抱いている。わたしと意見が違っても彼は彼の思っていることを話している。

サマーズ氏はクリントン政権の財務長官も務めた民主党支持者だが、筆者は彼の政治的な意見には同意しないものの彼の経済学的見解には敬意を払っている。

例えばサマーズ氏はバイデン政権がインフレの脅威を無視していた時からインフレを警告しており、それは正しかった。

トランプ氏も同じように、政治的見解の違いにもかかわらずサマーズ氏に敬意を払っているらしい。

この部分はトランプ氏がサマーズ氏に反論する前置きに過ぎないのだが、久々にトランプ氏の発言を聞いてはっとさせられた。

何故ならば、彼は敵であっても敬意を払うべき部分がある人には敬意を払うことのできる人間だからである。ほとんどの政治家にはそれができない。ヒラリー・クリントン氏はトランプ氏の支持者を「救いようのない人々」と呼んで顰蹙を買ったが、トランプ氏は即座に「政治的立場が違ってもヒラリー氏の支持者を尊重する」と言い返した。

それはトランプ氏が2016年の大統領選挙に勝利した一因だった。そしてそれはトランプ氏が金正恩氏やウラジミール・プーチン氏らと戦争なしで渡り合える一因だろう。アメリカ民主党やウクライナ支持の日本人のように相手を盲目的に敵視し戦争を引き起こすのは政治家のやることではない。それは戦争屋のやることである。

関税を使う理由

トランプ氏はビジネスマンであり、それは彼が交渉家であることを意味している。それが彼の関税戦略に絡んでいる。

サマーズ氏は経済的理由からトランプ氏の関税政策を批判した。トランプ氏はそれを理解した上でこう返している。

わたしは関税の力を信じている。何故ならば関税は2つの利益をもたらすからだ。1つは経済的利益であり、もう1つは政治的利益だ。

筆者はサマーズ氏の記事でトランプ氏の関税政策について、恐らくトランプ氏は関税を中国などに対する交渉に使うつもりだろうと書いておいたが、それは正しかったらしい。

トランプ氏はややぼかしているが次のように言っている。

もし国家間で問題が起こり、それが経済とはまったく関係なく、資金の流出や流入とも関係なく、それが政治的問題であるなら、アメリカには強い力がある。

他の国ならそうではないかもしれないが、アメリカはそう言うことができる。何故ならば、アメリカは他国にとって貯金箱だからだ。

これはアメリカが莫大な貿易赤字の国であることを指している。アメリカは中国などの国にとって商品の買い手(つまり客)なので、アメリカは貿易においてお金を出す側なのである。だから大口の顧客としての立場を活かして他国と交渉し、有利な取引を引き出すべきだと言っているのである。

ドルからの資金流出

また、トランプ氏は興味深いことにこの問題に関連してドルからの資金流出に言及している。

彼は次のように続けている。

だが貯金箱はどんどん小さくなっている。アメリカは力を失っている。多くの国がドルから逃げ出しているからだ。

バイデン政権がロシアに対してドル資産の凍結などの経済制裁を行い、ウクライナ戦争に協力的でないインドなど無関係の国にもドルを使った制裁をちらつかせて戦争への協力を迫った結果、BRICS諸国や中東諸国などのあらゆる国がドルの保有を減らそうとしている。

トランプ氏はドルからの逃避について次のように言っている。

ドルの力を失うことは戦争で負けることと同じようなものだ。

ドルの経済圏からロシアはいなくなった。

中国も実質的に居なくなっている。むしろ彼らはドルの代わりになろうとしている。イランも居ない。サウジアラビアさえもドルではなく他の様々な通貨を使うと言った。

これは悲劇だ。これはアメリカにとって一大事だ。アメリカはそれを阻止しなければならない。

だが何故これが関税と関係があるのか。彼は次のように続ける。

関税はアメリカに大きな力を与える。そしてその力は例えばそうしたことを阻止するために使える。

結論

どうもトランプ氏は関税やその他の交渉力を最大限利用して、バイデン政権が引き起こしたドルからの逃避を元に戻そうとしているらしい。

関税を使ってそれが可能かどうかは不明だが、こうした政治的交渉に関してトランプ氏は当然筆者より上手なので筆者がどうこう言うことではない。関税はあくまで1つの手段なのだろう。

関税については2016年にトランプ氏が当選した直後にスタンレー・ドラッケンミラー氏が次のように言っていたことが今回もそのまま適用できるだろう。

保護貿易の恐怖ばかりが強調されているが、その他の政策におけるプラスの面に比べてそれは誇張され過ぎている。

だが問題はインフレである。今の状況で減税を行えば、インフレがぶり返すのではないのか。

そしてより深刻なのは、ここで国債を更に発行すれば国債市場に最後の一撃を加えてしまうのではないかということである。

次の記事ではトランプ氏が自ら減税政策について語っている部分を紹介するので、楽しみにしていたもらいたい。