引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、The Prof G Showによるインタビューである。今回はインフレ対策について語っている部分を紹介したい。
インフレと通貨安
前回の記事でダリオ氏は、コロナ後の金利上昇で先進国の政府債務に多額の利払いが生じ始めていることを懸念し、この問題は通貨安と国債価格下落という結果を生むと予想していた。
それはアメリカではこれからだが、日本ではもう始まっている。
日本で既にそうなっているように、通貨安や輸入物価上昇が長期的なものになる場合、国民はどのように身を守れば良いのか。
世界最高のヘッジファンドマネージャーの1人であるダリオ氏は次のように薦めている。
ゴールドと物価連動債の組み合わせが良いのではないか。
物価連動債とはインフレの分だけ利払いが増える債券のことであり、ゴールドも物価上昇時に価格が上がるので、つまりダリオ氏はインフレから恩恵を受ける資産クラスを推奨している。
アメリカでは今、インフレが収まったのではないかという議論がされている。アメリカのインフレ率は9%から3%にまで下がっている。
だがダリオ氏は構わずインフレの話をしている。インフレがそう簡単に収まるという話を信じていないのである。
インフレ相場における株式とゴールド
もしインフレ相場が継続するなら金融資産はどうなるのか。ダリオ氏は次のように述べている。
わたしは1970年代や1930年代のような状況を想定している。そうした状況下では株式の実質リターンは現物資産に比べて酷かった。
ここの読者にはお馴染みだが、1970年代は物価高騰の時代である。世間ではインフレ対策で株式を買えと言われているが、以下の記事で説明した通り、実際には1970年代のインフレ相場では株式の価値は名目で横ばい、インフレ調整後の実質値で3分の1になった。
一方でゴールドは25倍に高騰している。
ちなみに株式はこのインフレの期間、預金や不動産などのパフォーマンスにも大負けしている。一般に言われていることとは逆に、インフレ・高金利相場では株式は最悪の選択なのである。
ゴールドと分散投資
逆にインフレ相場で貴金属はバブルと言うべき上昇を見せる。このように、長期的に株式と逆に動くということ自体が、ダリオ氏のようなファンドマネージャーにとっては魅力となる。
ダリオ氏は次のように説明している。
金投資には他の資産と相関がないか、一般的にいってほとんど反相関にさえなっているというメリットがある。だから有効な分散投資になる。
株式や債券への投資を考えている投資家ならば、ゴールドをポートフォリオに入れればリスクを減らすことが出来る。
もしインフレ・高金利相場ならばゴールドが利益をもたらしてくれるだろう。デフレ・低金利相場ならば株式が利益をもたらしてくれるだろう。
ダリオ氏は分散の天才だが、ダリオ氏にとって分散とは多くの株式銘柄を買うことではない。ダリオ氏は、インフレ・高金利相場で軒並み低パフォーマンスとなるような銘柄の詰め合わせを分散されたポートフォリオとは呼ばないのである。
本当に分散されたポートフォリオとは、インフレかデフレ、どちらのシナリオになっても安定してリターンを生んでくれるポートフォリオのことである。
結論
ダリオ氏は、そうしたポートフォリオのためにはゴールドは不可欠だと考えている。
ダリオ氏はコロナ後に現金給付が決まった直後、まだ世界がインフレにもなっていなかった2020年、歴史上の大国がインフレと通貨安を引き起こして没落していった歴史を研究した『世界秩序の変化に対処するための原則』の執筆を淡々と始めていた。
2024年にようやく話題になりつつある通貨安と国債下落というシナリオを当時から視野に入れていたのだろう。ダリオ氏の先見の明には脱帽するばかりである。
世界秩序の変化に対処するための原則