12月FOMC会合結果は利上げ決定、長期金利は危険水域へ

2016年12月14日、アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は政策決定会合であるFOMC会合を開催し、政策金利を0.25%上昇させることを決定した。11月のアメリカ大統領選挙後初の会合であり、決定は全会一致である。

利上げはそのものは事前の予想通りだったにもかかわらず、アメリカの長期金利やドル相場は激しく動いた。以下の記事で忠告しておいた通りである。

何故こういう動きになったのか、そしてこれからどうなるのか、声明文やイエレン議長の記者会見の内容などを紹介しながら説明してゆきたい。

慎重な声明文

先ず、声明文はドナルド・トランプ氏の大統領選挙勝利を受けての金融市場の大きな変化を盛り込んだ内容となっているが、それ以上の言及は避けられている。労働市場の分析はより回復に自信を持った表現に置き換えられた。

就労者数の増加はここ数ヶ月力強く(solid)、失業率は下落している。

市場のインフレの織り込みについては以下のように言及されている。アメリカ大統領選挙の結果を受けて長期金利が大きく上昇している現状を織り込んだ形となる。

市場のインフレ期待は相当程度(considerably)上昇したが、いまだ低い。

以下は政策変更について述べた部分である。政策金利の目標レンジを0.25%切り上げることが決定された。

これまでの、そしてこれから期待される労働市場と物価上昇の状況を考慮し、委員会はフェデラルファンド金利の目標レンジを0.5%-0.75%へと上げることを決定した。

しかしながら、今後の利上げ方針について書いた部分に変更はなく、労働市場やインフレ指標、インフレ期待などを考慮しながら「段階的(gradual)な利上げ」を見込むと書かれたのみである。2017年以降の利上げについてはイエレン議長の記者会見と、いわゆる「ドットプロット」で語られた。

ドットプロットの示す利上げ見通し

ドットプロットとはFOMCメンバーがそれぞれ適切と思う将来の政策金利を時間軸にそってチャート上に点で表したものであり、それを見ればFOMC内の多数派が2017年に3回、2018年に2回か3回の利上げを予想していることが分かる。

前回発表されたドットプロットでは2017年に2回が想定されていたから、1回分タカ派となったことになる。これを受けて市場がどう動いたかと言えば、金利先物市場は2017年末までの利上げ回数を以下の確率で織り込んでいる。

  • 0回: 3.5%
  • 1回: 17.5%
  • 2回: 32.7%
  • 3回: 28.8%

つまり2回か、多ければ3回ということである。これまでFedの自己申告をほとんど信じていなかった投資家が、その考えをかなり改めたことが分かる。このタカ派的な変化を受け、執筆時点で長期金利は2.6%を突破、ドル円は118円台まで上昇した。ジム・ロジャーズ氏の見解に近付いてきた形となる。

イエレン議長の記者会見

イエレン議長は記者会見で様々な議題について話しているが、重要なものをいくつか取り上げよう。

先ず、トランプ次期政権の経済政策については明言を避けた。イエレン議長は以下のように述べている。

会議ではそうした議題についても勿論話し合ったが、要約すれば、すべてのFOMCメンバーが経済政策の変化とそれが経済に及ぼす影響について相当の不透明性を認識しているということだ。

トランプ大統領の政策については詳細が明らかになっていない段階での言及は避けるということである。

しかし投資家が注目すべきなのは、イエレン議長が金利について語った部分である。恐らくはこの部分と上記のドットプロットがドルを押し上げたのだろう。

現在の緩和の度合いについては「穏やか」であると判断する。われわれは中立金利(訳注:マクロ経済学的に適切な金利)はかなり低いと見積もっている。したがって現在の政策はいくらか緩和的であると考えるべきである。インフレ率が目標に達していないことを思い出すべき。

興味深いのは、イエレン議長が中立金利が現行の金利よりもやや高い水準にある(つまり現行の金利が適正値よりも低い)と見積もっていることである。それが緩和的であるということの意味である。

ちなみにだが、過去にも彼女が金利水準を「緩和的」と呼んだことがある。その数ヶ月後に株式市場は崩壊した。

ちなみに、前回の記事で注目すべきとした「金利上昇による実体経済と資産価格へのリスク」についての言及は一切無かった。ドットプロットを上昇させたことにしても、市場で長期金利が上がるのであれば政策金利も追随させようという安易な考えが頭の中にあるのだろう。

個人的にはこの態度そのものが金利高、ドル高の原因となっていると考える。金利高の悪影響を軽視する方針は明らかにリーマンショック以前のイエレン氏の方針を彷彿とさせる。

やはり学者は金利上昇が市場にもたらす影響を計算出来ないのである。長期金利は現在2.6%であり、以下の記事でわたしが危険水域と呼んだ2.7%-3.0%のレンジが近付いている。

世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏も金利上昇の危険性に言及していた。株式市場にとっての正念場が近付いている。