アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで今年11月のアメリカ大統領選挙について語っている。
大統領候補トランプ氏の政策
大統領選挙が近づいている。今は6月だからあと半年を切っていることになる。
事前調査ではトランプ氏がリードしており、トランプ氏の勝利を予想する著名投資家も多い。
であれば、投資家が考えなければならないのはトランプ氏の経済政策である。トランプ氏が再び大統領になればアメリカ経済はどうなるのか。
サマーズ氏は次のように言っている。
わたしが生きてきた中で今回のトランプ氏の政策ほどインフレ的な大統領選挙公約を見たことがない。
サマーズ氏は民主党の支持者であり、民主党のクリントン政権の財務長官を務めたこともある人物だから、トランプ氏には常に批判的である。
そこは差し引かなければならないが、仮にトランプ氏の支持者であってもトランプ氏の経済政策がインフレ的であることは否定できないだろう。
サマーズ氏は次のように続ける。
恐らく1972年のジョージ・マクガバーン氏が多少似た例かもしれないが、その他にはこれほど無責任な政策の詰め合わせに近い例はこれまでなかっただろう。
トランプ氏勝利ならインフレか
恐らくそれは言い過ぎだろう。マクガバーン氏は1,000ドルの現金給付を公約にしてニクソン大統領に敗れた民主党の候補だが、それ以上の現金給付を実際に行なったアメリカの大統領がトランプ氏の他にもいる。バイデン氏である。
ポール・チューダー・ジョーンズ氏がアメリカのインフレについて半笑いで次のように言っていたことを思い出したい。
問題なのは、大統領としてわれわれが選ぶ選択肢が、まさにわれわれをこの状況に追い込んだ張本人2人だということだ。
トランプ氏のインフレ政策
それは笑い事ではなくなりつつある。実際に2人のどちらかが勝利してアメリカの大統領となる現実が近づいてきているからである。
サマーズ氏はトランプ氏の経済政策について次のように述べている。
トランプ氏の関税政策は供給に非常に大きなショックを与える。それは輸入物価を押し上げるだけでなく、輸入品に競合しているすべての商品の価格を押し上げる。
更に彼は再生可能エネルギーへの補助金を縮小しようとしている。それはエネルギー価格を押し上げる。
エネルギー価格については民主党支持のサマーズ氏のポジショントークだろう。エネルギー価格を押し上げたのは、化石燃料を採掘できないようにしたバイデン氏の脱炭素政策である。
バイデン氏は原油の生産を減らす自分の政策で原油価格が上がった後、原油価格が上がったのは中東諸国が原油の生産を抑えたせいだとして他国を非難した。
だが関税の方はサマーズ氏にも理があるだろう。トランプ氏は関税をむしろ中国との交渉の材料として使っている節があるのだが、金融市場がそれをどれだけ本気で受け取るかは考えなければならないことである。
トランプ氏とインフレ動向
サマーズ氏は次のように纏めている。
需要側から見ても供給側から見ても、トランプ氏の政策は物価を大きく押し上げるためのレシピだと言える。
それはインフレ期待の押し上げにも繋がり、Fedは自身の信用を維持できるかどうか、非常に大きなプレッシャーを受けることになるだろう。
少なくともトランプ氏は大幅な減税を選挙公約にしている。それは明らかにインフレ的な政策である。
トランプ氏の選挙公約は2016年の大統領選挙における公約とある程度似ていることから、2016年にトランプ氏が大統領選挙に当選した時の金融市場の動きが参考になるかもしれない。
当時、選挙前にはトランプ氏が大統領になれば市場が暴落するという説がメディアを支配していたが、蓋を開けてみれば真逆の結果となり、市場は大統領選挙のあと急速に経済成長とインフレを織り込んでいった。
政治的理由からトランプ相場を嫌ったジョージ・ソロス氏が米国株を空売りして大損を計上したことが思い出される。
同じような相場になるならば、財政出動による実体経済への資金流入を市場は織り込んでゆくことになる。期待インフレ率は上がり、金利は上昇するだろう。
サマーズ氏は次のように言っている。
トランプ氏が大統領になれば、住宅ローンは10%まで簡単に上がり得る。それはわたしが最初に家を買った時の金利水準だが、アメリカで再びそうなるとは当時思ってもみなかった。
2016年、まだインフレが問題となっていなかった時には、経済成長とインフレは好意的に受け入れられた。金利上昇もまだ問題にはならなかった。
だが今回、コロナ後にインフレが問題となり、莫大な政府債務に巨額の利払いが発生しつつある状況で市場がインフレを織り込み金利が上がるとどうなるのか。
ジョーンズ氏やケン・グリフィン氏の懸念が現実のものとなりつつある。投資家はいよいよ大統領選挙に向けてポートフォリオをどうするのかを決めなければならないだろう。