6月FOMC会合結果と今年の利下げ予想

アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は米国時間6月12日に政策決定会合であるFOMC会合の結果を発表し、政策金利を5.25%に維持した。

金利の維持は予定通りだが、最近のインフレ動向にパウエル議長がどう反応するかが投資家に注目されていた。

インフレとFOMC会合

パウエル議長は去年の終盤から利下げをテーブル上に持ち出していた。以来米国株が上がっているのもそれが理由である。

ただ、インフレ率はそれ以来横ばいを続けており、パウエル氏の予想ほどには下落していなかった。一方でFOMC会合と同じ日に発表されたCPI(消費者物価指数)統計はインフレ減速を示しており、それに対してパウエル氏がどう反応したかである。

結論から言えば、Fedはこの最新の統計を好感した。

まずFOMC会合後に発表される声明文だが、経済動向に関して先月の声明文から変化した箇所は1つだけであり、ここ数ヶ月2%のインフレ目標に対して更なる進展が「見られていない」と書かれていた箇所が「穏やかに継続している」に変わっている。

CPI統計に安堵したパウエル氏

パウエル議長の記者会見にも安心した感が見られる。「進展が見られない」がキーワードだった前回のFOMC会合と違い、今回パウエル氏は次のように言っている。

2%のインフレと完全雇用という目標に対してアメリカ経済は過去数年間大きな進展を見せている。

インフレデータは今年の序盤には期待より高く推移していたが、より最近の月次データではインフレは多少減速している。

パウエル氏としては、去年利下げと言ってしまった以上、利上げに逆戻りするような事態は避けたかっただろう。

今やパウエル氏は自分の設定した政策金利の水準に自信を持っている。彼は次のように述べている。

金融政策は引き締め的だと考えている。そして究極的には、金融政策を引き締め水準にさえしていれば経済は最終的には十分弱まって来るだろう。

金利をこれほど上げた場合にはいずれ利下げを考え始めることになるということをずっと考えていた。

利上げの可能性を排除するわけではないが、われわれの誰もそれをメインシナリオとは考えていない。

利下げと言ったのは間違いではなかったと言いたいわけである。

今年の利下げ予想

ということで、パウエル氏は引き続き利下げをするつもりである。今回の会合では会合参加者が今後の政策金利の予想値をプロットするドットプロットが公表されているが、今回のドットプロットでは年内1回の利下げがメインシナリオであると示されている。

前回のドットプロットでは3回の利下げがメインシナリオとなっていたから回数は減少しているのだが、金融市場は既に3回の利下げは無理だと悟っていたから、Fedはそれに合わせた形となる。

今年の会合は7月、9月、11月、12月の4回残っているが、金利先物市場は9月での利下げをメインシナリオと想定している。

アメリカ国民の不満

今回のFOMC会合はパウエル氏が市場予想に合わせた形となり、あまり新たな情報もなかったと言えるが、記者会見で少し面白いやり取りがあったので紹介したい。

最近、アメリカでは国民の経済への不満が大きくなっている。パウエル議長はそれが不思議らしい。彼は次のように述べている。

何故人々がアメリカ経済についてそれほど不満を持っているのかについてはっきりとした答えを持っている人はいないのではないか。

GDP成長率は悪くない数字であり、インフレ率も下がってきているのに、一体何が不満なのかとパウエル氏は考えているのだろう。

その答えは簡単である。インフレ率は下がっても物価は下がっていないからである。インフレ率とは物価の上昇率であり、インフレ率が下がってもプラスである以上、コロナ以後大きく上がった物価は下がることなく上がり続けているのである。

ここにインフレ率しか見ない中央銀行と生身の人々とのズレが表れている。日本でもそうだが、円安のお陰で大きく上がった輸入物価は上がったままである。

人々は当然不満に思っている。だが長期的にはインフレや通貨安は避けられないだろう。金利が上がって巨大な政府債務に利払いが生じ始めた以上、政府は今までのように支出を負やすことができない。

アメリカ政府はむしろ国債の利払いのために国債を刷らなければならない状況に追い込まれている。

この状況を解決する手段として、著名投資家は米国債の債務減免や中央銀行を破綻させる方法を考えている。それはいまや事故ではなく、膨れ上がった政府債務を処理する現実的な方法なのである。

結論

アメリカ経済はまだもっているが、高金利の死の鎌は着実に近づいてきている。1980年にはポール・ボルカー議長が人々の怨嗟の声を無視して金融引き締めによるインフレ退治をやり切った。

不気味なのは、人々の怨嗟の声がパウエル議長の肩にかかりつつあること、そしてその声にパウエル氏が気付いていないことである。

後ろから近づく声にパウエル氏が振り向かなければならなくなる時はいつになるだろうか。その時パウエル氏はどうするのだろうか。

コロナ後の紙幣印刷の後処理を行なうタイミングがいよいよ近づいている。