ECBテーパリング(緩和縮小)でユーロ下落の理由

12月8日、ECB(ヨーロッパ中央銀行)は金融政策決定会合を開き、債券買い入れプログラム(量的緩和)の期限を2017年3月から12月まで9ヶ月延長することを決定したと同時に、月間の債券買い入れ額を800億ユーロから600億ユーロに減少することを発表した。

市場ではこれを緩和縮小(テーパリング)と判断すべきかどうか意見が分かれており、為替相場は発表の後やや荒れた。ユーロ相場は結局ユーロ安で反応しているが、買い入れ額減額にもかかわらずユーロが下落した理由について、投資家はやや戸惑っていることだろう。

市場予想と微妙に異なる結果

先ず、市場の予想は買い入れ額を800億ユーロに維持して6ヶ月延長であったから、600億ユーロで9ヶ月延長は、金額では引き締め的、期間では緩和的ということになる。

ECBの発表を受けての為替相場の当初の動向は、買い入れ額の減少をテーパリングと受け取ってのユーロ高であった。しかしその後ドラギ議長の記者会見が始まり、「経済が悪化すれば緩和を拡大する」「ユーロ圏のインフレ率は2019年まで(目標の2%より低い)1.7%に留まる」などの発言が伝わると、実質的に金融緩和が2019年まで必要となるとの思惑からユーロ安に転じた。

ECBがアメリカの利上げにならって緩和終了を考えるのではないかという懸念も聞かれていたから、その分の安心感もあったのだろう。ユーロドルのチャートは最終的に以下のようになっている。

2016-12-9-eurusd-chart

元々1.07ドル台後半で推移していたのが、一度1.09ドル近くまで上がってそこから1.06ドル台前半まで急落したことになる。

何故テーパリングでユーロ下落か?

問題は、何故買い入れ額減額にもかかわらずユーロが下落したのかということである。色々理由はあるが、一番重要なものは恐らく、ECBが緩和縮小に追い込まれるという予想が当初より一部の投資家から出ていたことにある。

今回の会合の決定に対する一般的な予想は買い入れ額維持ではあったが、わたしの周りの金融関係者はECBの量的緩和はいずれ限界に達するという見方を共有していたと思う。そして恐らく今回、ある種の限界に達したのである。この点では日銀の長期金利目標導入と同じということになる。

ではECBの直面している限界とはどういうものか? この点についてはFinancial Timesが良く纏めているので、その記事(原文英語)を紹介したい。タイトルは「ECBが購入する債券はいつ枯渇するのか?」であり、これは9月の記事であるから、以前よりECBが買い入れ額減額に追い込まれるという予測があったことが分かる。

ECBが購入する債券はいつ枯渇するのか?

先ず、ECBはユーロ圏の様々な債券を買い入れているが、その組み合わせには様々な制限がある。一番の安全資産はドイツの国債ということになるが、そもそもドイツは借金を嫌っており、国債を発行したがらないため、ECBが大量に買い入れればドイツ国債が早い段階で枯渇するのではないかとの懸念は、ECBが量的緩和を開始した頃から存在していた。

では他の国の国債を買えば良いのではないかと思うところだが、そこには別の制限がある。ユーロ加盟国のうち、特定の国を利する政策とならないように、国債買い入れの額はそれぞれの加盟国の経済の大きさに比例するように定められているからである。つまり、ユーロ圏最大の経済大国であるドイツの国債を最も多く購入するように定められている。

しかも問題はドイツ国債だけではなく、全体を見渡したとしても枯渇はかなり近いと言わざるを得ない。何故ならば、ユーロ圏には7.5兆ユーロの国債や公債が存在していると推計されているが、枯渇の上限はこの発行残高ではないからである。

ECBの規定では、それぞれの国の債務残高の3分の1以上の国債を買い入れてはならないとされているため、実際にECBが買い入れられる債券は7.5兆ユーロよりもかなり少ない計算になる。ECBの年間買い入れ額は元々9,600億ユーロ、減額後でも7,200億ユーロであることを考慮すれば、減額後であっても債券が数年で枯渇してしまう懸念があることは明白だろう。

結論

この問題を解決するためには、買い入れ対象となる債券を制限するこれらの規定を変更するか、買い入れ額を減額するかのどちらかが必要になる。今回のテーパリングは後者の措置であり、またECBは今回の会合で政策金利を下回る利回りの債券を買い入れないとしていた規定を取り払う決定を下している。つまり、現在の政策金利である-0.4%を下回る債券も、これからは買い入れることが出来るようになるということである。

これらの事実は、買い入れ額が結果的に減少したとしても、ECBが可能な限り限界まで債券を買い入れていることを示唆している。そしてECBが債券を限界まで買い入れている限り、債券価格が下がる(つまり金利が上がる)ことはないだろう。少なくとも金融市場は今回のテーパリングをそのように解釈したということである。

ECBの債券枯渇問題は今後も尾を引くと想定され、投資家にとっては何らかの投資機会を産む可能性がある。ECBにも日銀のような緩和限界が近付いてきているということである。