引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のWSJによるインタビューである。
今回は本当の分散投資とは何かについて語っている部分を紹介したい。
ダリオ氏の分散投資
世界最高のヘッジファンドマネージャーの1人であるダリオ氏が投資の助言を求められたとき、いつも口にするのが分散投資である。
ほとんどの投資家は分散投資の重要性なら分かっていると言うだろう。だがこの分散投資は個人投資家が思っている分散とはかなり違う。ダリオ氏は次のように述べている。
わたしが見つけた投資の鉄則では、互いに相関しない15個の優れたリターンの源泉を見つけられるかどうかがすべてだ。
理想的な分散ができれば、期待リターンを減らすことなくリスクの8割を消せる。
「互いに相関しない」というところが重要である。それはつまり、1つの銘柄が下がったからといって別の銘柄もつられて下がったりしないということである。
例えば景気後退が来れば、株式だけではなく多くの銘柄は下落するだろう。その時にも利益を出すためにはどういう銘柄をポートフォリオに入れれば良いのか?
それがダリオ氏の言う分散投資である。
投資の4つのカテゴリー
ダリオ氏は分散投資について次のように説明している。
分散をしたければ4つのカテゴリーに分けて考えれば良い。
インフレが上がるか下がるか、そして経済成長が上がるか下がるかだ。
物価が上がり、経済成長も上がるとき、物価は下がるが経済成長は上がるとき、物価が上がって経済成長は下がるとき、物価が下がって経済成長も下がるとき、ダリオ氏は経済にはこの4パターンが存在すると言っている。
例えば株式や債券はどうだろうか? ダリオ氏は次のように言っている。
株式は経済成長が金利を上回るときに上昇する。そうでなければ下落する。
債券は基本的にはその逆で推移する。
「成長が金利を上回る」という箇所はやや難しいが、例えば株主の利益の源泉である企業利益が増加したとしても、その成長率よりも高い金利によって貯金の方が早く資産を増やせるような状況であれば、誰も株式に投資しないだろう。
だから成長は金利との兼ね合いで考えるのである。
物価上昇・成長率上昇
ではそれぞれのカテゴリーにあてはまる投資対象とは何だろうか? まずは物価上昇、成長率上昇で利益の出る投資と言えば、株式や不動産である。
米国株は1970年代の物価高騰時代にパフォーマンスの悪い銘柄になってはいるが、株式にとってマイナスなのはあくまでインフレに伴う金利上昇であって、インフレ自体ではない。
また、銅や鉄鉱石など好景気で需要が増えるコモディティ銘柄や、そうした銘柄を扱う採掘企業の株式なども良いパフォーマンスになるだろう。
物価下落・成長率上昇
これはなかなか難しいが、ジャンク債などだろうか。債券は一般的に物価低下に強い。一方でデフォルトのリスクの高いジャンク債は景気後退時には価格が下落してしまうが、景気が良ければデフォルトのリスクも少なく、普通の債券より高い金利を享受できるだろう。
また、原油を燃料としている航空株なども悪くないだろう。コストが下がれば利益が上がることになる。
物価上昇・成長率下落
物価上昇で成長率下落ならばやはりゴールドだろう。典型的なのが1970年代のアメリカの物価高騰時代で、この時代は貴金属が1人勝ちとなった。
現在の相場の問題は、この状況が再現する可能性が低くないことである。
物価下落・成長率下落
最後にこれは要するに景気後退ということである。そして景気後退でも上がる銘柄と言えば、国債と相場は決まっている。
これはリーマンショックの時を考えれば分かる。リーマンショックで株式も金相場も下がったが、国債だけはリスクオフで価格が上昇した。
結論
ということで、ダリオ氏のいう4つのカテゴリーにそれぞれ当てはまる銘柄の例を挙げてみた。
ダリオ氏は次のように語っている。
金融状況の緩和と引き締めはすべての投資銘柄を上げたり下げたりする。
だがあるカテゴリーのものが下がっても別のカテゴリーのものが上がってくれれば、ポートフォリオ全体では上手く行くはずである。それがダリオ氏の言う本当の分散なのである。
さて、この考え方に基づいて自分のポートフォリオがどうなっているのかを考えてみてもらいたい。最近の投資ブームで株式銘柄をたくさん持って分散したつもりでいる投資家が多いが、プロの目から見ればそれはまったく分散になっていない。
金融業界では伝統的に株式と債券を両方持つポートフォリオを分散と考えてきたが、2022年のインフレ・金利上昇(つまり上で言う物価上昇・成長率下落のシナリオ)で株式と債券が両方下がってしまったため、この伝統的な分散のやり方では駄目だという話になってもう2年も経っている。
株式に全賭けしているポートフォリオが本職のファンドマネージャーの目にどう映るかは明らかだろう。それは分散ではなくむしろリスク集中である。
また、多くの個人投資家は株式が長期的には必ず上昇するという予想の上に行動しているが、その予想が間違っていた場合の分散はどうするのか? とジェフリー・ガンドラック氏は言っている。
また、スタンレー・ドラッケンミラー氏はその予想が間違ってると言っている。
分散とは多くの個人投資家が考えるよりも奥が深いのである。