2016年アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利して以来、アメリカの株式市場では様々な銘柄が値上がりしている。トランプ氏の経済アドバイザーであるジョン・ポールソン氏やカール・アイカーン氏の投資戦略については以前お伝えした。
新たな政権に移行する時には新たな政策によって様々な銘柄が値上がりするものであり、ファンドマネージャーたちは様々な方法で利益を得るわけだが、Elliott Management創業者のポール・シンガー氏は一風変わった銘柄で一儲けしたようである。それは刑務所株である。
アメリカの刑務所株
アメリカには民間企業が運営する刑務所というものが存在する。CNBC(原文英語)によれば、アメリカの受刑者のうち11%に相当する2万2000人程度が民営刑務所に収容されており、これらの民営刑務所はCoreCivic (Google Finance; NYSE:CXW)やThe GEO Group (Google Finance; NYSE:GEO)などの企業によって運営されていた。
これらの刑務所株は当然ながら政府の方針に大きく影響される銘柄であるわけだが、大統領選の前後にこの刑務所株が大きく動いたことがちょっとしたニュースになっており、シンガー氏はそこに目を付けたようである。
事の発端は、2016年8月にアメリカ司法省がこうした民営刑務所の使用の段階的打ち切りを発表したことである。司法省によれば、民営刑務所は「公営の刑務所よりも多くの安全上の問題を引き起こした」として、元々減少傾向にあった民営刑務所の数を将来的にゼロにする方針を明らかにした。
当然ながら、このニュースを受けて刑務所株は大暴落をしたわけだが、ヒラリー・クリントン氏が大統領選挙時に民営刑務所を廃止する方針を支持したことで売りが更に加速していた。以下はCoreCivicの株価である。
以下はThe GEO Groupの株価である。
両銘柄とも8月に40%近く暴落しているが、その後11月に大きく反発している。11月8日のアメリカ大統領選挙である。
刑務所株はトランプ銘柄か?
株式市場は大統領選挙直前までヒラリー・クリントン氏の勝利を織り込んでおり、クリントン氏の民営刑務所廃止方針を受けて刑務所株も低迷していたが、市場にとってサプライズとなったトランプ氏の勝利を受けて急反発したというわけである。
ただ、個人的に知る限り、トランプ氏は民営刑務所に関する政策を明らかにしたわけではない。しかし一部の投資家は、トランプ氏が不法移民に対して強硬姿勢を明確にしていること、そして一般に政府部門の民営化による政府負債の削減を主張していることなどから、民営刑務所を廃止する司法省の決定を覆してくれるのではないかと期待しているようである。
しかし繰り返しになるが、トランプ氏が民営刑務所についてコメントをしたという報道はない。トランプ氏の方針次第では、刑務所株がまた大きく動く可能性がある。
結論
こうした動きから投資家が得られる教訓は、利益を得るためには必ずしも予想を当てずとも良いということである。シンガー氏が今回の刑務所株上昇を受けてこれらの銘柄を売り払ったのかどうかは明らかになっていないが、彼は少なくとも、トランプ氏が大統領選で勝利した場合、これらの銘柄が上がるということを知っていた。
もしかするとトランプ氏は民営刑務所廃止の方針を覆さないかもしれない。しかしその場合も、その前に利益確定をしてしまえば何も問題がないということである。投資家は予測において必ずしも正しくある必要はない。他の投資家より正しければ良いのである。