引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のWSJによるインタビューである。
今回は日本の金利上昇について語っている部分を紹介したい。
政府債務の問題
さて、前回の記事でダリオ氏は、先進国で膨らみ続ける政府債務への不安からゴールドに資金が流入していると主張していた。
ダリオ氏は『世界秩序の変化に対処するための原則』で解説している通り、歴史上大国の莫大な借金は紙幣印刷やインフレによって解決されてきたと主張している。
そして日本で起きている円安や金利上昇は典型的な事例だと述べていた。
日銀の国債買い入れ
今回、ダリオ氏は日本経済についてもっと踏み込んだ発言をしている。ダリオ氏は日本経済をどう見ているのか。彼は次のように話している。
日本では日銀が大量の国債を買い入れた。だが国債を買い入れたすべての中央銀行は今、大きな損失を抱えている。
コロナ後の現金給付が物価を高騰させて以来、世界各国で金利が上がっている。債券にとって金利上昇は価格下落を意味するので、それは債券の価格が下がっているということである。
その影響を受けた経済主体はたくさんある。まず一番の問題は、金利が上がったことでこれまで利払いがほとんどなかった莫大な政府債務に多額の利払いが発生していることである。
金利がゼロならば、政府債務がGDPの100%あろうが200%あろうが利払いは発生しない。だが『世界秩序の変化に対処するための原則』に書かれている通り、紙幣印刷はいずれエスカレートしてインフレを引き起こすのが歴史を見ればいつものことである。
他には、国債価格が下落したので当然ながら国債の保有者が被害を被った。アメリカでは去年、大きな地方銀行がいくつも倒産した。
だが誰よりも多くの国債を持っている主体を忘れていないだろうか。それは中央銀行である。先進国の多くの中央銀行は量的緩和で国債を買い入れたので、大量の国債を保有している。
先月日銀は国債の下落による損失が9兆円となったことを報告した。だが日本では長期金利はまだ1%までしか上がっておらず、金利が更に上がっている欧米では中央銀行の損失補填が問題となっている。
補填すれば、実質的には中央銀行が自分で自分の損失を補填することになるので量的緩和(紙幣印刷)になってしまう。しかしそうすればインフレが悪化する。
ダリオ氏は中央銀行を破綻させることも1つの選択肢だと言っている。
日本の金利はどうなるか?
日本経済はこれからどうなるのか。ダリオ氏は次のように述べている。
日銀は金利をより高くする必要がある。日本の実質金利がアメリカの実質金利と似た状態にならない理由があるだろうか?
もしそうなれば、日銀も損失を抱えた他の中央銀行と肩を並べることになる。
ダリオ氏はいずれ日本もアメリカやヨーロッパのように金利を上げなければならなくなると考えているようである。
だがそうなれば日本の方が問題が大きいだろう。日銀はFed(連邦準備制度)よりも抱えている国債が多い。更に、アメリカは今GDP比122%の政府債務に5%の利払いが発生しようとしているが、日本の政府債務はその倍近い217%であり、アメリカと同じ金利水準になれば政府の利払いも当然その倍近くになる。
更に、ダリオ氏は次のように言っている。
もし実質金利が-1%から2%になり、3%も変化したらどうなるだろうか? それは憂慮すべき事態だ。
ダリオ氏が実質金利に言及しているのは、実質金利が多くのことに影響を与えるからである。
例えば株式市場もその1つである。インフレによって実質金利が上がったのは、アメリカで2022年に実際に起きた。当時の実質金利は次のようになっている。
実質金利はおよそ2.5%上がった。その結果、株式市場は以下のようになった。
25%の下落である。誰も気にしていないが、日銀が同じように利上げしなければならなくなれば、日本株にも同じ状況が再現する可能性は高い。
結論
金利上昇による問題はあまりに数が多い。政府債務への多額の利払い、国債保有による損失、株式市場の下落、そして実体経済の景気後退である。
だが、経済の歴史を研究し尽くしたダリオ氏によれば、緩和政策がいずれエスカレートしてインフレと金利上昇を引き起こすことは既定路線だった。それは歴史を振り返ればいつものことなのである。
ダリオ氏は次のように纏めている。
今起こっていることは、われわれの世代は経験したことがないが、歴史上何度も起こってきたことだ。
デフレからインフレへの過渡期には、いつも紙幣印刷を擁護する人々が現れる。そしてインフレとともに消えてゆく。それすらも歴史上の風物詩なのである。
それはもはや避けられない。だから投資家にできることは、こうした紙幣印刷の馬鹿騒ぎから身を守ることである。1970年代の物価高騰時代には、それは貴金属だった。
世界秩序の変化に対処するための原則