引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewaterのレイ・ダリオ氏のWSJによるインタビューである。今回はゴールドについて語っている部分を紹介したい。
金価格の上昇
前にも少し紹介したが、最近の金相場の上昇には不可解な点がある。金価格は以下のように推移している。
何故このゴールドの上昇が不可解なのかと言えば、普通金相場は金利低下で上昇するはずだからである。金利が付かないゴールドはドルの金利が上がればドルへの資金逃避が起きるが、逆にドルに金利が付かなくなればゴールドへと資金が流入する。
だが、ここ最近金利は特別下がったわけではない。どちらかと言えばむしろ上がっている。アメリカの長期金利は次のように推移している。
金価格はインフレでも上昇するが、相場の期待インフレ率も3月以降上がっているわけではないのである。
ゴールド上昇の理由
では金価格はどうして上がっているのか。これは多少難問である。周りにいる相場に詳しい人にこの現象を説明できるかどうか聞いてみてほしい。
ダリオ氏はどのように解説しているか。ダリオ氏はその原因を先進国の政府債務だと考えているようである。ダリオ氏は次のように述べている。
アメリカには莫大な負債がある。莫大な負債を生み出し続けている。そしてその負債はマネタイズされる可能性が高い。
マネタイズとは、つまり中央銀行が紙幣印刷で解決するということである。
国家が莫大な政府債務を抱えるときに何が起きるのかという疑問を聞く相手として、ダリオ氏ほど相応しい人物はいないだろう。
ダリオ氏はコロナ直後に大規模な紙幣印刷と現金給付が行われたのを見るや否や、過去の覇権国家が莫大な政府債務を抱えてインフレを引き起こしたときに何が起きたのかを研究し、早々と著書『世界秩序の変化に対処するための原則』に纏めたからである。
歴史上、今のアメリカのような状況になった国家、例えば大英帝国などは、抱えた政府債務とともにどうなったのか。ダリオ氏は次のように説明している。
歴史を振り返れば、国家が負債に対処しなければならなくなるとき、通貨の価値を保って負債を返済すればデフレと景気後退になる。だから結局マネタイズすることになる。
紙幣価値を傷つけずに政府債務を返すとは、つまり政府が増税によって国民からお金を徴収し借金を返済するという意味である。
このケースにおいては政府債務がそのまま国民にのしかかって来る。だから実際にはその大部分は紙幣印刷で返済されるのである。そしてそれは、今の日本でそうなっているように、インフレと通貨下落を引き起こす。
こういうケースで例に挙がるのはいつも読者もご存知のあの国である。ダリオ氏は次のように述べている。
日本で今起こっていることは典型的な事例だ。
戦争と貴金属
また、ダリオ氏は政府債務以外にゴールド上昇の理由を次のように述べている。
そして戦争だ。大きな紛争が起きている状況で貨幣が信用できるだろうか?
歴史的には、戦争が起こっているとき国は他の国にお金を貸すことさえ渋り始める。お金を貸せば価値のなくなった紙幣で返済されるのではないかと恐れるからだ。
それはドイツが第1次世界大戦後に賠償金を支払った方法である。賠償金はマルク建てだったので、ドイツは紙幣印刷で賠償金を支払い、借金を返済した代わりにハイパーインフレになったのである。
だから世界情勢が危うくなると、国家は互いに相手の通貨を受け入れたくなくなる。実際、ウクライナ以後にアメリカがドルを経済制裁の武器として使ったことで、BRICS諸国などアメリカの政治的都合でドル資金を凍結されたくない国々はドルの保有を避けている。
だからダリオ氏は次のように言う。
国々が互いの通貨を受け入れなくなる状況が再び起きようとしている。
では何が紙幣の代わりになり得るのか? 代わりになるものといえば、ゴールドはほとんど貨幣価値のイメージそのものだ。1971年(訳注:ニクソンショックで金本位制が崩壊する)まで紙幣価値の根幹だった。
ドルは中央銀行にゴールドを預けた預かり証であり、ドル紙幣を中央銀行に持っていけばゴールドを返してもらえるという約束が反故になったニクソンショック以降、紙幣は正真正銘ただの紙切れになっているが、それまでは紙幣の意味とはゴールドが返ってくることだった。
本当にただの紙切れになってしまった紙幣を何故人々がまだ大事に持っているのかは大きな謎だが、ダリオ氏がここで言いたいのは、紙幣の代わりになるものがあるとすればまずゴールドだということである。
結論
ダリオ氏は次のように纏めている。
ゴールドを押し上げているのは戦争と紙幣価値の下落だ。
金相場はまだ過熱していない。多くの人はゴールドを意識していない。それは投資家にとって良いサインだ。
ダリオ氏の見解は間違っていないと思うが、1970年代の金価格高騰の事例を踏まえ、筆者が今のゴールド上昇の理由を分析した記事を書いているので、そちらも参考にしてもらいたい。
ただ、投資対象としては長期的な価格水準が割安なシルバーとプラチナを薦めたい。シルバーについては1970年代の解説記事が参考になる。
プラチナについては以下の記事で解説している。
世界秩序の変化に対処するための原則