ガンドラック氏: 投資で一番重要なのは予想を間違っても死なないようにすること

引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の自社配信動画でのインタビューである。

今回はガンドラック氏がこれまでのキャリアで学んだ一番大切なことについて語っている部分を紹介したい。

投資で一番大切なこと

ガンドラック氏は投資に関してこれまでに学んだ一番大切なことは何かと聞かれて、次のように答えている。

毎日の始まり、すべてのトレードの始まりに、自分の予想がいつも正しいわけではないと理解しておくことだ。

わたしの40年のキャリアを分析してみると、わたしの予想の70%ほどは正しい。

これを多いと思うだろうか、少ないと思うだろうか。ガンドラック氏は以前「予想が60%正しければ金融業界でやっていける」とも言っていた。確率が分かる人なら理解できるだろうが、60%の確率で正解できるルーレットはほぼ必勝のゲームである。

ガンドラック氏は次のように続ける。

70%は多そうに聞こえるが、40年以上のキャリアで30%間違っていれば、12年間違っていることになる。

予想が間違っている場合

何故自分の予想が常に正しいわけではないと理解することが重要なのか。ガンドラック氏は次のように説明する。

いつでも正しいわけじゃないということを理解すると、考え方が変わる。もしこの予想が間違っていた場合でも死なないようにするためにはどうすれば良いかと思うようになる。

投資の初心者は皆誤解しているが、投資において一番重要なのは予想が当たるかどうかではない。当たった場合にどうなり、当たらなかった場合にどうなるかだ。

だからファンドマネージャーのテクニックの半分以上は起こらなかったシナリオに費やされている。それは目に見えない。だからプロ以外の人には理解しにくい。

ガンドラック氏は次のように説明する。

ジャーナリストにインタビューされればよくこういう質問をされる。「あなたは金利が下がると予想して、金利は実際に2%下がりました。でもどうして30年物国債しか保有しなかったのですか?」

金利が2%下がったなら、例えばハイテク株は30年物国債よりも大きく上がっているだろう。ビットコインは更に大きく上がっているだろう。

もっとリスクの高い資産を買っていた方が良かったのではないか。だがガンドラック氏はこう続ける。

そういうのは破産する考え方だ。そのジャーナリストがお金を一切運用したことがない事実を物語るもの以外の何ものでもない。

そういう賭け方はできない。予想は間違うかもしれないからだ。そしてその場合にも生き残らなければならない。

リスクとリワード

筆者がポジションを組むとき、一番最初に考えるのはそのポジションで最悪の場合いくら損するのかである。

ポジションを大きくすればするほど最悪の場合の損も大きくなる。最悪の場合の損失額が耐えられるぎりぎりの数字になるとき、それがポジションの大きさの上限である。

世界最高峰のファンドマネージャーであるスタンレー・ドラッケンミラー氏は顧客の資産を運用した何十年もの間、毎年30%以上のリターンを出し続けた。

一方で世の中には数年で資産を数百倍にした個人FXトレーダーもいるかもしれない。

結果だけ見れば後者が勝っている。だが資産運用の分野ではそうは考えない。プロが考えるのはリスク調整後のリターンだ。つまり、ドラッケンミラー氏のように毎年安全に30%勝てる人の年率30%は、運で勝った人の年率200%に大きく勝る。

ジョージ・ソロス流のリスク管理

だからファンドマネージャーの考察の多くの時間は、起こらない可能性が高いシナリオに費やされる。それがもし起こった場合にも生き残れるようにポートフォリオを調整しておくのである。

それこそが本当に優れたファンドマネージャーの芸術的手腕である。ジョージ・ソロス氏は著書『ソロスの錬金術』でポートフォリオの組み方について次のように書いている。

一つの仮説にすべてを賭けるというのは、私にはめずらしい行為である。普通は、少なくとも部分的に矛盾する仮説に従って行動している。

原則として、妥当性を持つ仮説に基いてつくったポジションは手放さないことにしている。そして新しい仮説に基いて反対方向のポジションを追加する。

その結果、調整する必要のある微妙なバランスを適宜調整できるようになる。

ファンドマネージャーの本当の力量は予想が間違った時にこそ発揮される。

結論

例えば最近の投資ブームで資産を株式だけに放り込んでいる人が多いが、彼らは「株式は長期的に上昇する」という予想を立て、それが絶対に間違わないと考えている。

だが実際には株式は長期的に下がることもある。日本株はバブル崩壊から30年もの間上がらなかった。それは金利を下げることができなかったからだ。そして米国株に今後数十年その状況が再現される可能性は決して低くない。

彼らはインデックスを買い、多くの株式銘柄をまとめ買いすることで分散投資できていると考えている。

だがこの記事で書いたように、分散とは銘柄の分散ではなくシナリオの分散である。複数のシナリオを想定し、メインシナリオの予想が外れた場合にもポートフォリオが耐えられるようにしておくこと。

彼らのメインシナリオが実現しなかった場合、彼らのポートフォリオはどうなるのか。すべての資産を入れたNISA口座が仕事を引退した時点で大きく下落していた場合、どうやって生活してゆくのか。

彼らは分散していると思い込みながら、正しい保証のまったくないたった1つのメインシナリオに全賭けしているのである。

それは分散ではない。シナリオを分散させない人に対し、ガンドラック氏は次のように言っている。

そういう人々は破産する。1つの予想にすべてを賭けるからだ。

あなたのポートフォリオは分散されているだろうか。

分散とは実は資産運用で一番難しい秘術なのである。以下の記事も参考にしてもらいたい。


ソロスの錬金術