引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の自社配信動画におけるインタビューである。
今回は金利の長期見通しについて語っている部分を紹介したい。
ガンドラック氏の金利予想
ガンドラック氏は2019年に、金利は6%になるという予言をしたことがあった。コロナ前で、誰もが世界経済は低金利が永遠に続くと思い込んでいた時代である。
金利は結局5%台になった。アメリカの政策金利は以下のように推移している。
ガンドラック氏はコロナを予想したわけではない。金利には長期サイクルがあり、ゼロ金利のあとはマイナス金利と量的緩和、現金給付を経て物価が高騰し金利が上昇し始める、という歴史的なトレンド推移を知っていただけである。
金利の長期サイクルについてはレイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』で詳しく説明されている。
金利はゼロに戻るのか?
問題は、インフレによって上がってしまった金利は元の低金利に戻るのかということである。
今の高金利は一時的であって、ゼロ金利やマイナス金利の時代はまた復活するのか? インタビューでガンドラック氏はそれを聞かれて次のように答えている。
答えはノーだ。そうは思わない。ノーだ。
正確に言えば、ゼロ金利の時代が戻ってくることはあるだろう。しかしそれは、金利上昇という長期トレンドが行き着くところまで行き着いてから、1980年にポール・ボルカー氏が行なったようなインフレ退治と大不況を経て金利低下の時代に戻り、最終的には金利がゼロに戻ってくるという何十年ものトレンドを経てからということになり、多くの人の寿命はそれより短いだろう。
金利上昇の時代
ガンドラック氏の予想が正しければ、問題は今われわれは金利上昇の時代に生きているということになる。
そして金利上昇の時代には、金融資産の値動きは金利低下の時代とはまったく異なる。
だが多くの人はそれを見逃している。金利低下の時代に起こっていたことが当たり前になりすぎて、それが金利上昇の時代にも同じように起きると勘違いしている。
だがガンドラック氏は次のように述べている。
今、わたしは過去の相場のパターンを将来に当てはめる時には非常に注意深くなるようにしている。
金利がどう動くか、景気後退の時にドルがどう反応するかを話す場合、これまでの動きは長期的な金利低下の環境のもとで起こってきた。だが金利低下はもう終わった。
例えば景気後退時にはドルは新興国などの通貨に対して上昇するのが定石だった。
だがアメリカ経済は今、金利上昇によって政府の国債利払いが急増し、財政がかなり危うい状態になっている。
だからガンドラック氏は次のように続ける。
誰もが景気後退でドルが強くなると思っている。しかしわたしは景気後退への経済対策の副作用でドルは非常に弱くなると思っている。
結論
金利低下の時代における常識を金利上昇の時代にそのまま当てはめてはならない。それがガンドラック氏の警告である。
高金利の時代には成り立たない低金利の時代の常識は他にあるだろうか。
何より株価の推移だろう。金利低下は株価にとってプラスであるから、1980年以降の数十年の金利低下は米国株を長期的に持ち上げる大きな要因となった。
だが金利上昇の時代には金利の推移が逆に株価の足を引っ張る逆風となる。
そういう時代に米国株はどうなるのか。例えば日本株が30年も低迷した理由は、同じ時期の米国株のように金利低下の恩恵を受けられなかったからである。
では同じように金利低下の恩恵がなく、金利上昇の重荷を背負いながら推移する米国株はどうなるのか。
ここの読者には言うまでもないことだが、米国株は1970年代にそれを既に試している。1970年代の金利上昇の時代には米国株のインフレ調整後の実質リターンは大きなマイナスとなっている。
当時の米国株の長期パフォーマンスについては以下の記事で解説している。
株価が長期的には常に上昇するというのは間違った信仰である。正しくは、長期的な金利低下の追い風があれば、株価は長期的に上昇する。
金利上昇の逆風がある場合にはどうなるか。株価の短中期的な推移を予想するには複雑なタイミングの問題がある。だが長期的には容易である。長期的には株価は金利に従うだろう。
世界秩序の変化に対処するための原則