ガンドラック氏: 米国の年金はインフレ高金利であと4年で破綻する

引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の自社配信動画におけるインタビューである。

日本でも将来大幅に減額されることが避けられない年金の問題は話題になっているが、アメリカでは金利上昇によってこの問題は更に差し迫っているようだ。

米国の財政赤字

アメリカの景気は悪くないが、それは世界的なインフレをもたらしたコロナ後の莫大な現金給付のお陰である。

この現金給付のお陰でアメリカの財政赤字は2020年にGDP比の15%という未曾有の水準にまで膨らんだが、問題は財政赤字は今もなおかなり高い水準に留まっているということである。

GDP比の財政赤字は以下のように推移している。

政府の支出はGDPの構成要素なので、そのままGDPを押し上げる。だから、逆に言えばアメリカはこのレベルの財政赤字を続けなければ今の経済成長率を保てないということである。

財政赤字の問題

だが財政赤字はこれまでも増えてきた。これからも増えることが何故問題なのか。

ガンドラック氏は次のように説明している。

次の景気後退ではGDP比12%ほどの財政赤字が1年か2年ほど続くことになるだろう。

それはかなり恐ろしいことだ。借り換えなければならない国債が既に大量に存在しているからだ。

ガンドラック氏が心配しているのは、次に景気後退が起こったときに、経済危機に対応するために国債を更に発行しなければならないことである。

国債を大量発行しなければならなければ何がまずいのか? ガンドラック氏は次のように続ける。

人々が心理的にも経済学的にも織り込めていないのは、元々金利が0.25%や0.5%や1%だった国債で、今後3年で借り換えなければならないものが17兆ドルも存在していることだ。

それらの国債が0.25%の金利で再発行されることはありそうもない。

現在、アメリカの政策金利は5.25%である。国債もすべてのものが5%前後で推移している。

何故これが問題かと言えば、金利が上昇した2021年より前に発行された国債であればほとんど金利が付いていなかったものが、借り換えの時期が来れば今の高い金利水準で借り換えなければならなくなるからである。

急速に膨張するアメリカの債務利払い

結果として、米国政府の国債に対する利払いはGDP比で以下のように急速に膨張している。

米国政府の国債の利払いは既にGDPの1%以上増加しており、国債の利払いのために国債を発行しなければならない状況に追い込まれている。

だがその新しく発行された国債にも5%の金利が付く。

だから米国政府は崖っぷちである。ガンドラック氏は次のように言う。

だから次の景気後退で財政赤字が拡大する時に大量の国債を発行しなければならなくなれば、経済危機は最大規模のものになるだろう。

国債の期限が来るにしたがって社会保障を削減するか再編しなければならなくなるからだ。

経済危機は年金から

インフレが起きるまでは何の問題もなかったはずの政府の借金の問題が、インフレと高金利によって差し迫った問題となっているが、投資家もアメリカ国民もまださほど気にしていない。

だが国債の利払いが急速に増加していることはただの事実であり、アメリカの財政危機は着実に近づいている。

それはいつだろうか。ガンドラック氏は次のように予想している。

CBO(議会予算局)は2034年がそのタイミングだと言っているが、彼らの想定は4%の財政赤字、3%の金利、そして景気後退がないことだ。

だが金利は既にそれより大幅に高く、財政赤字もそれより大幅に高く、2032年までに景気後退が1度もない可能性は、控えめに言っても小さいだろう。

だから2028年までに社会保障は再編がなければ資金不足に陥るというのがわたしの予想だ。

これまでは財政赤字という、一般国民からすればほとんど架空のように見える数字が膨らんでゆくだけで、政府の借金は何の問題もないように見えた。

だが日本でも増税が増えている。何故こうなったのか。日本には国民の資産があるから政府の借金は大丈夫だという主張を行なった人は、それは政府の借金が国民の資産で帳消しにされるという意味だということに気付いていなかったからである。

そしてアメリカでは一番最初に来る問題は社会保障、つまり年金だとガンドラック氏は言う。年金が大幅に削減され、高齢者は支出が出来なくなって消費が弱まるのである。

スタンレー・ドラッケンミラー氏が若い世代への負担の移転だと言っていた問題が、インフレ金利高騰によってむしろ今の高齢者にとって直接の問題となりつつある。

金利を上げられないアメリカ

更にガンドラック氏は次のように言っている。

Fed(連邦準備制度)が利下げをする口実を探しているのはこれを理解しているからだろう。このままの金利水準で景気後退入りになれば、支払いの約束がなされている政府債務の再編をしなければならなくなることを彼らは理解しているはずだ。

最近、Fedのパウエル議長がインフレを無視したような言動を続けている。

だがそれは、金利を上げると政府の利払いの問題が悪化することをパウエル氏が知っているからではないかとガンドラック氏は疑っている。

しかし元々の問題はインフレが起こってしまったことなのだから、利下げをしてインフレが再加速すれば問題は更に大きくなるだろう。

利上げをしても地獄、利下げをしても地獄である。アメリカ経済はどうなるだろうか。楽しみに結果を待ちたい。