ビル・グロス氏: トランプ大統領は低金利政策を継続する

債券投資家のビル・グロス氏がドナルド・トランプ大統領以後のアメリカの金融政策について語っている。大統領選挙後、アメリカの長期金利は上昇し、その結果ドルは上昇しているが、いわば金利の専門家であるグロス氏はそうした動きに懐疑的な意見を表明している。

トランプ政権の金融政策

トランプ氏はまだ金融政策について具体的なプランを発表していない。選挙中は中央銀行であるFed(連邦準備制度)がオバマ政権の味方をするために低金利政策を維持しているのだとして、Fedの政策を批判してきたが、大統領就任後どういう金融政策を支持するのかについて投資家の注目が集まっている。

市場はトランプ大統領の経済政策はインフレ率を上昇させるものだと解釈し、結果金利は世界的に上昇している。高インフレは高金利を意味するからである。しかしグロス氏はそうした見方に懐疑的である。彼はBloombergによるインタビュー(原文英語)で以下のように述べている。

トランプ氏はこれまでFedに敵対的な意見を表明してきたが、Fedの政策がどうあるべきかについて具体的な意見を表明したわけではない。Fedは独立した機関であり、トランプ氏の言うことを聞くわけではないが、トランプ氏はFedの新たなメンバーを3-5人ほど指名することが出来るという意味で、Fedの金融政策に大きな影響力があると言っていい。

トランプ氏は大統領としてFedのメンバーを指名できるという点は非常に重要である。それは大統領が中央銀行に影響を及ぼすための手段である。そしてその結果、アメリカの金融政策は次のようなものになると言う。

わたしが思うに、トランプ氏のFedに関する思惑は、非常に緩和的な金融政策を継続することで、財政赤字を拡大する強力な財政出動を支えることではないかと思う。

つまりは利下げや量的緩和再開の話をしているのである。

トランプ大統領はハト派か?

トランプ政権は国債を発行し借金をすることで、大規模な公共事業の財源を賄おうとしている。しかし金利が上昇するなかで大量の国債を発行を行えば、その国債への利払いが多額のものとなり、アメリカ政府の財政は立ち行かなくなってしまうわけである。

そのためグロス氏は、財政出動を支えるためにトランプ氏が金融緩和で金利を下げる可能性を指摘している。そうすれば国債に対して支払わなければならない金利を抑えることが出来る。この見方は大統領選挙後にわたしが指摘したものと同じである。

結果、グロス氏は金利の動向を以下のように予想する。

そうなれば、金利は引き続き、一昔前に得られたものよりもかなり低い水準に保たれることになる。

意見が一致した二人の債券王

興味深いことに、こうした意見は少し前に紹介したガントラック氏のものに似ている。つまりは二人の著名な債券投資家が金利上昇に懐疑的な相場観を表明したことになる。

一方で、グローバルマクロ戦略の投資家たちは金利上昇を予想している。トランプ氏の勝利以来、著名投資家の意見は分かれている。

結論

トランプ氏はまだ金融政策について明確な意見を表明していない。次期財務長官に指名されたムニューチン氏や次期商務長官のウィルバー・ロス氏が経済政策について意見を表明し始めているが、金融政策についてはFedとトランプ氏次第だとして言及を避けている。

よって投資家が注目すべきは、グロス氏の言うようにトランプ氏がFedのメンバーに指名する人物が誰かということである。特に2018年2月に任期が終了するイエレン議長の後任が誰に決まるかは非常に重要である。

しかしながら、わたしの予想ではそうした情報は来年まで待たなければ出てこないだろう。トランプ氏はオバマ政権が続くなかで金利を低下させるような発言は避けるだろうからである。彼は株式市場のバブルを認識しており、バブルが弾けるならば大統領就任前が良いと思っている。高金利は株価バブルを崩壊させる可能性がある。

今後のシナリオで投資家にとって一番投資機会が大きいのは、トランプ氏がFedの実権を握る前までに利上げが進み、その後一気に低金利に移行する場合だろう。落差が大きいほど利益は大きくなる。しかしそれまで株式市場が保つだろうか? トランプ大統領の金融政策については引き続き報じてゆく。