債券王ガンドラック氏、債券投資を勉強した方法を語る

引き続き、金融メディアで債券王と呼ばれているDoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の自社配信動画におけるインタビューである。

今回はガンドラック氏が債券の勉強を始めてからDoubleLine Capitalを創業するまでの話を紹介したい。

債券を勉強する債券王

前回の記事では保険会社のアクチュアリーだったガンドラック氏が資産運用会社に採用され、債券が何か知らなかったという理由で株式部門に入ろうとした(後に債券王と呼ばれる人物である)ところを上司に止められて債券部門に入ることになったところまでを話した。

大学では数学と哲学を学び、金融とはまったく無縁だったガンドラック氏だが、債券が何かさえ知らなかったガンドラック氏はここから本格的に債券投資を学び始める。

ガンドラック氏は次のように述べている。

保険会社を辞めて新しい会社に入るまでの1週間を『Inside the Yield Book』と呼ばれる債券投資のバイブルと言うべき本を読んで過ごした。再投資など債券の仕組みについて説明されていた。

本の後半には数学の公式が書かれていた。債券に関する数学の公式だ。

勉強してみると自分が多くを学べるということが分かった。数学の博士課程に居たことがあるので、書かれている公式を自分で導出することで公式への理解を深めた。

Inside the Yield Book』は債券投資を学ぶ人がまず手に取るべき本である。

ガンドラック氏はそれが気に入った。株式部門に入ろうとするガンドラック氏に、債券の方が数学の経験を活かせると言った上司の判断は正しかったわけだ。

ガンドラック氏はこう続ける。

そうして働き始めた。わたしは初めナイーブで、公式を自分で導出することなどは誰にでも出来ると思っていたが、数日すると自分が債券投資をやっている人々よりも債券について詳しく知っていることに気付いた。

当時の債券業界

当時、債券を本気でやっている人はあまり居なかったようだ。ガンドラック氏は次のように語っている。

当時、資産運用と言えば分散ファンドと呼ばれるようなもので、1つの会社が株式と債券を両方扱い、6:4や4:6などの比率で投資するものだった。

そこでは債券の担当者は脇役で、株式の担当者がいつも会社を動かしていた。

だから債券の担当者はほとんど居ても居なくても良い存在だった。

しかし何度も言うが、債券(特に金利)を理解せずに株式投資をすることは出来ない。だから、金融業界の多くの人は結局のところ債券も株式も出来ないということになる。両方できる人は少数だからである。

債券王の誕生

ガンドラック氏は特に専門家の少なかった債券投資で頭角を現した。彼は次のように続ける。

6ヶ月後、クライスラーの年金の運用を任されることになった。元々担当するはずだった人が、社長がコネで持ってきたこの案件で失敗してクビになることを恐れたからだ。

幸いなことにそれほど難しい仕事ではなかった。完全なアクティブ運用ではなく機械的な運用で済む案件だった。

相手も喜んでくれた。だから次はモーゲージ担保証券を運用に組み込むようにした。モーゲージ債は出来上がったばかりの市場で急速に変化していて、飛び抜けて面白い市場だった。

たくさんのことが起こっていて、余剰のリターンを生むには実りの多い場所だった。運もあってわたしは業界で一番のリターンを生むようになった。

モーゲージ債は、ガンドラック氏が今でもよくトレードする銘柄である。ガンドラック氏は金利が上がる中、住宅ローンを証券化したモーゲージ債を推していた。

彼はその理由に、金利が上がったとはいえ住宅価格が大きく上がっている今、住宅ローンがデフォルトすることはないということを挙げていた。だから小さなリスクで大きな金利が得られるということである。

こうした銘柄選びのセンスはこの頃から培われたものなのだろう。

自分の会社を立ち上げた理由

ガンドラック氏はまたたく間に債券投資のスターになった。だが彼は最終的に資産運用会社をクビになって自分の会社を立ち上げている。

それほど優れたリターンを上げたのなら、何故クビになったのか? ガンドラック氏は次のように説明している。

あなたがもし何かに本当に優れているならば、いずれクビになることはほぼ保証されている。

それでDoubleLineを創業した。

この皮肉の効いたコメントが分かる人は、自分自身も何かに秀でた人だろう。優れた人材は他の人と意見が合わないので、パフォーマンスを犠牲にして平凡な上司に合わせるか、クビになって自分の会社を立ち上げるかどちらかを選ぶことになる。

別にどちらかを選びたかったわけではないが、仕方のないことである。そして選ばなければならないならば、どちらを選ぶかは決まっている。

こうして債券王のDoubleLine Capitalは生まれたのである。株式投資家の生い立ちなら珍しくないが、債券投資家がどのように債券王になったのかは、債券に少しでも興味のある人には参考になったのではないか。


Inside the Yield Book