DoubleLine Capital創業者のジェフリー・ガンドラック氏が、自社の動画配信で珍しくも自分のキャリア初期の話をしている。
大学生ガンドラック氏
ガンドラック氏の相場観についてはここで定期的に取り上げているが、彼の初期のキャリアについては筆者もあまり知らなかった。Wikipediaにも多くのことは書いていない。
ガンドラック氏は学生時代のことについて次のように語っている。
わたしは大学で数学と哲学を学んだ。それらの学位を取って何に使うかはまったく考えていなかった。単に好きだったから学んだ。
だが他の学生も直面するように、ガンドラック氏も就職の問題に直面した。
ガンドラック氏は次のように述べている。
哲学は現実の世界で何も使えなかったが、数学は多少使えた。
どう使うかと言えば、保険会社でアクチュアリーになるか、数学の教授になるか、NSA(国家安全保障局)で暗号を解読する仕事に就くかだ。国防省の仕事には就かないと決めていたし、お金が必要だったので、保険会社の仕事を選んだ。まったく好きになれなかった。
ここがガンドラック氏と、クオンツ投資の帝王となったジェームズ・サイモンズ氏の分かれ道だったようだ。
ガンドラック氏はNSAには行かなかった。保険会社でアクチュアリーをやっていたのだが、その仕事も好きになれなかった。
それでどうしたか。ガンドラック氏は次のように説明している。
だから大学に戻ろうと思った。イェール大学で博士課程に入ったが、そこも行き止まりだった。教授になるしかないからだ。
教授とは仕事内容と無関係の政治的なごたごたとは無関係の理想的な職種だと思っていたが、真逆だった。あれほど政治的な仕事もなかった。
だからまた保険会社に就職したようだ。今回の仕事はそれほど嫌ではなかったらしいのだが、一生をアクチュアリーとして過ごすつもりもなかったようだ。
資産運用業界へ
そんな時、ガンドラック氏は自宅の白黒テレビで「もっとも儲かる仕事ベストテン」という企画を見たようだ。自分のキャリアについて考えていたガンドラック氏は、その番組に興味を持った。
彼は次のように言っている。
アクチュアリーは7位だった。ちょっと驚いた。だが1位のところに来ると、彼らは1位は投資銀行家だと言った。
彼らによれば、投資銀行家をやるためにはたくさん働く必要があり、分析的な思考ができなければならなかった。
自分は両方できると思った。だから番組の終わりには投資銀行家になろうと思っていた。
最終的に債券投資という天職を見つけたガンドラック氏からは想像できない安易な考えだが、その後に仕事を探そうとした方法が更に驚きだった。
彼は次のように続けている。
そして棚から電話帳を取り出して投資銀行家の求人を見つけようとした。
ネタバレをすれば、投資銀行は電話帳に求人の広告を載せたりはしなかった。
それでとりあえずどういう会社があるか、電話帳で電話番号を探そうとしたようだ。
そして「資産運用業」のページを見つけた。似たようなものだと思った。
資産運用の世界へ
結局求人広告は見つからなかったのだが、ガンドラック氏はそこに書いてあったすべての資産運用会社に履歴書を送ったという。
そして1社から好意的な返事が返ってきた。ガンドラック氏はこう続ける。
そこにはこう書いてあった。「弊社の求人広告には多くの応募がありましたが、あなたと話してみたいと思っています」
「求人広告?」と思ったが、運の良いことにその会社はカリフォルニア大学ロサンゼルス校に求人広告を出していたらしかった。まったく知らなかったが。
ガンドラック氏のおそるべき場当たり的な就活に驚いてしまう。
だがそうしてガンドラック氏は資産運用会社の面接にこぎつけた。彼はこう続けている。
その会社に行って採用担当者に会った。その会社でかなり偉い人だった。
フィクスト・インカムかエクイティのどちらがやりたいですか? と彼は聞いてきた。わたしはしばし固まってこう言った。「両方何のことか分かりません」
その人は呆れた顔でこう言った。「エクイティは株式だ。フィクスト・インカムは債券だ」
それでも債券が何か分からなかったので「株式」と言った。
彼は困ったようにこう言った。「債券の方が君の計算能力の助けを借りられると思っているんだけどね」
結論
これが後にCNBCなどの金融メディアの常連となり、債券王とも呼ばれるようになった債券投資のスペシャリスト、ガンドラック氏の金融キャリアの始まりである。
ちなみに今でも特に日本の学生は金融業界に入るとき、債券投資についてあまり知らないという理由で株式投資からキャリアを始めがちだが、筆者は断然債券をお勧めする。株式投資を知らなくても債券投資はできるが、債券投資(特に金利)を知らなければ株式投資はできないからである。
しかし債券が何か知らなかった債券王の若い頃の姿には若い人々は勇気づけられるはずだ。誰でも最初は何も知らないところから始めるからである。