引き続き、機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fを紹介する。今回はジョージ・ソロス氏が保有しドーン・フィッツパトリック女史が運用するSoros Fund Managementのポートフォリオである。
リスクオフを予想するソロス氏
今回のForm 13Fはなかなか面白い対比となっている。かつてクォンタム・ファンドにおいてソロス氏を上司としていたスタンレー・ドラッケンミラー氏が米国小型株を大幅買い増しし、リスクオンを予想する一方で、ソロス氏はリスク資産を空売りしているからである。
ドラッケンミラー氏の最大ポジションが小型株指数Russell 2000のETFのコールオプション(株価上昇で利益が出る取引)の買いだった一方で、ソロス氏の最大ポジションはNasdaq 100のETFのプットオプション(株価下落で利益が出る取引)の買いである。
ポジションの規模は3.8億ドルとなっている。
IT銘柄も小型株もともに金利に敏感なカテゴリーであり、ドラッケンミラー氏がリスクオンに大きく賭ける一方で、ソロス氏(またはフィッツパトリック氏)はリスクオフに大きく賭けていることが分かる。
Nasdaq 100のETFは現状以下のように推移している。
ジャンク債の空売り
しかもソロス氏のリスクオフ予想はIT銘柄の空売りだけではない。
何故ならば、ソロス氏の3番目に大きいポジションに、ジャンク債ETFのプットオプション(下落に賭ける取引)の買いがあるからである。ETF1.9億ドル分のポジションとなっている。
ジャンク債ETFは以下のように推移している。
IT銘柄とジャンク債の両方の下落を予想しているのだから、ソロス氏のリスクオフは徹底している。
また、ソロス氏の2番目に大きいポジションはGoogleの親会社であるAlphabetの買いとなっている。ポジション規模は2.2億ドルである。
Nasdaq 100を空売りしながらAplhabetを買っているところから、IT企業全体は駄目だがAlphabetは良いということだろう。
確かにAlphabetの株価収益率は大手IT企業の中では低く、安い水準で買えれば良い投資となっただろう。
結論
IT企業とジャンク債の空売りというソロス氏のポートフォリオをどう考えるか。
ともにインフレに弱い(2022年に大きく下落した)カテゴリーなので、恐らくソロス氏はインフレ再加速による金利上昇を予想しているのだろう。
インフレ再加速を危惧しているという点ではドラッケンミラー氏と一致している。
だがポジションの取り方は正反対である。その理由は、ドラッケンミラー氏がFed(連邦準備制度)のパウエル議長のインフレ退治を信じていない一方で、ソロス氏はインフレで金利が上がると考えているということだろう。
つまり、ソロス氏は金融政策が十分引き締め的になると考えており、ドラッケンミラー氏はそう考えていない。
同じようにインフレ再加速を予想しながらポジションが正反対になるということが、現在の相場の難しさを物語っている。
筆者はここ最近貴金属を推しているが、それもソロス氏の予想のように金利が引き締め的になれば下落に転じてしまうリスクをはらんでいる。
果たして誰が正しいだろうか。結果を楽しみに待ちたい。