ミレイ大統領: 政府主導の経済が自由市場の経済に勝てない経済学的証拠

2024年1月の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)から、アルゼンチンの大統領でありオーストリア学派の経済学者でもあるハビエル・ミレイ氏の演説を紹介したい。

アルゼンチンのミレイ大統領

前回の記事では、政府による補助金や寄付金が国民に対する不当な資本移動になっていると批判するファンドマネージャーのスタンレー・ドラッケンミラー氏がアルゼンチンのミレイ大統領を賞賛していた。

何故ならば、ミレイ氏は過去の緩和政策によって100%を越えるインフレとなったアルゼンチンで、政治家による勝手な政府債務の増加と財政支出を止めるために選ばれた大統領だからである。

ミレイ氏はオーストリア学派の経済学者だが、オーストリア学派では財政支出は無駄な公共事業を積み上げるだけで国民の幸福には繋がらず、生産性向上のためには民間セクターにおけるイノベーションと努力が必要だと考える。

ミレイ氏の経済学的論証

ミレイ氏はそれを論証するために経済統計を持ち出す。

彼は次のように述べている。

西暦元年から1800年ほどまでの間、世界の1人当たりGDPは期間を通して変化しませんでした。

人類の経済成長のグラフを振り返れば、それはホッケーのスティックのような指数関数的なグラフで、期間の90%はほとんど変わらないまま留まり、19世紀になって初めて指数関数的な上昇を見せ始めるのです。

停滞の期間における唯一の例外は15世紀後半のアメリカ大陸発見です。

ミレイ氏が語るのは世界の1人当たりGDPの成長の歴史である。指数関数的なグラフとは、最初はほとんど上昇を見せないが、途中から物凄い勢いで上がってゆくグラフのことである。

驚くべきことだが、19世紀になるまで世界の経済成長は極めて緩慢だった。より詳しくは次の通りである。

西暦元年から1800年までの1人当たりGDP成長率は0.02%ほどで安定しています。ほぼ無成長だということです。

厳密には今の成長率と比べると無成長に見えると言うべきなのだろう。昔にも多少のイノベーションは積み重ねられてきたのだろうが、今のイノベーションと比べると僅かということになってしまう。

産業革命と1人当たりGDP

だが19世紀にはそれが変わる。19世紀に何が起こったか。産業革命である。

ミレイ氏は次のように続ける。

19世紀の産業革命からは成長率が年率で0.66%になります。

1900年から1950年までの期間では、成長率は年率1.66%に加速しました。

ここから現代的な成長率へと変わってゆく。

産業革命以降は大量生産の時代である。大量生産ということは、単に金銭的に豊かになるというだけの話ではなく、より多くの人にものが届けられるということである。

そしてそのトレンドはまだ加速している。ミレイ氏は次のように続ける。

1950年から2000年では、成長率は2.1%になっています。

このトレンドは止まるどころか今でも続いています。2000年から2023年までの期間では、成長率は年率3%に更に加速しました。

結論

だからミレイ氏は、特に政府が支出を増やすべきだと主張し、自由市場を批判し政府の経済介入を支持する左派の人々の向けて次のように言う。

結論は明らかです。自由市場と資本主義という経済システムは、社会の問題の原因であるどころか、地球上の飢餓と貧困を終わらせるための唯一の手段なのです。

これは政府が大きく徴税し大きく支出する「大きな政府」と、それを最小限にする「小さな政府」の問題である。

「大きな政府」は日本の自民党やアメリカの民主党であり、小さな政府はほとんど存在しないが今のアルゼンチン政府か、あるいはスイス政府くらいだろうか。

「大きな政府」はお金が費やされる先を消費者ではなく政治家が決定するという意味で本質的には共産主義である。レイ・ダリオ氏なども、先進国のほとんどが多額の財政支出をしている状況を共産主義的と呼んでいた。

「大きな政府」の問題を指摘するには共産主義国の失敗を指摘するだけで十分である。だが経済学者のミレイ氏は経済の歴史を振り返り、資本主義の時代とそれ以外では経済成長がまったく違うことを示した。

日本の自民党やアメリカの民主党のような、ムラの権力者が財政を勝手に決めるようなムラ社会は太古の昔からあったはずだ。だがそれでは経済成長は0.02%のままだった。「大きな政府」も共産主義も、その時代の経済成長に戻すことを意味しているのである。

それは人々に貧困で死ねと言っているのと同じである。だが日本の自民党やアメリカの民主党のような左派(誤植ではない)の人々は、人々を経済停滞から救うためには財政支出しかないと言う。

面白い冗談ではないか。東京五輪や大阪万博がインフレと円安で苦しむ市民をどう助けるのか見てみたいものである。

だがミレイ氏の議論は本当に政治家のものとは思えない。本職の経済学者なのだから当たり前なのだが。米国の財務長官を務めた経済学者ラリー・サマーズ氏(彼は左派である)の他に、政治の世界に関われるまともな経済学者という稀有な人材が出てしまった。