サイモンズ氏: 効率的市場仮説は数学的に間違っている

5月10日に亡くなったルネッサンス・テクノロジー創業者のジェームズ・サイモンズ氏が、2015年のTEDによるインタビューで効率的市場仮説を否定している箇所を紹介したい。

効率的市場仮説

サイモンズ氏は数学と統計を使ってアルゴリズム投資をするクオンツ戦略の大家であり、チャーン・サイモンズ形式という自分の名前が付いた数学理論持ちの数学者でもあった。彼の生涯については前回の記事で紹介している。

その彼が次のように言っている。

効率的市場仮説は間違っている。

効率的市場仮説

効率的市場仮説とは何か。これは金融市場は非常に効率的に出来ていてあらゆる情報は瞬時に織り込まれるので、情報を使って市場の動きを予想しようとしてもすべて先に織り込まれていて意味がない、だから市場は予想できないとする経済学上の仮説である。

有名な話にこういうものがある。落ちている1万円札は本物であるはずがない、もし本物であれば誰かが拾っているはずだからだ、というものである。

つまり、市場で何か得しようとしても市場が先回りしているので市場で意図的に金儲けをするのは不可能だという仮説である。

仮説と言いながら経済学の一部の理論はこの仮説に基づいて考えられているのだが、何故そのような大切な理論基盤が仮説のままなのかと言えば、証明されていないからである。何故証明されていないのかと言えば、間違っているので証明できないからである。

効率的市場仮説に対する数学的反駁

サイモンズ氏の言っている通りである。効率的市場仮説が正しければ誰も市場を予想することができないので、効率的市場仮説は市場を予想することができない大半の経済学者を大いに慰めている。

だがそれは間違っている。あらゆる方向からの反駁が可能なのだが、今回はサイモンズ氏の数学的観点からの反駁を紹介したい。

効率的市場仮説によればサイモンズ氏もまた市場を予想して儲けることが出来ないから、逆に言えばサイモンズ氏が確かに市場を予想して儲けていることを証明できれば効率的市場仮説の間違いを証明できることになる。

サイモンズ氏のクオンツ戦略

だからサイモンズ氏は自分の投資戦略について次のように説明している。

アノマリーを見つけるんだ。

アノマリーとは、株価など金融市場における価格に対するある種の規則的なパターンのことである。

あるものの価格が上昇したとき、別のものの価格も上昇するとする。

この2つが必ず(あるいは高確率で)起き、かつそこにタイムラグがあるとき、最初のものが上昇した時に次のものを買えば儲けられることになる。

これはサイモンズ氏のクオンツ戦略を過度に単純化したものだが、話の要点はそういうことだ。

アノマリーは偶然か

そうした規則のようなもの、すなわちアノマリーを見つけたとしよう。ただ、それだけでは儲けることはできない。サイモンズ氏は次のように語っている。

アノマリーは、単なる偶然かもしれない。

上のようなパターンが何度か起こっていたとしても、たまたま2つのものが連動しただけで、次に前半部分が起こったとしても後半部分は起こらないかもしれない。

つまり、それが必然なのか偶然なのかがクオンツ戦略にとって重要なのである。

効率的市場仮説によれば、そのようなアノマリーは当然すべて偶然ということになる。

だがサイモンズ氏は次のように言う。

だが十分なデータがあればそれが偶然でないことは証明できる。

十分に長い時間起こり続けているアノマリーがあるとすれば、それが偶然である確率は高くない。

アノマリーが偶然でないことの証明

どういうことか。例えばあるサイコロを100回振った結果、100回とも1の目が出たとしよう。

このとき2つの可能性がある。1つはすべての目が均等に出るサイコロが偶然100回連続で1の目を出した可能性。そしてもう1つは、そもそもそのサイコロの目の出方が偏っている可能性である。

どちらの確率の方が高いか。それは純粋に数学的な問題である。そして実際に、サイモンズ氏は偶然である確率が高くないアノマリー、つまりは効率的市場仮説の反例をいくつも見つけ出している。

結論

よって効率的市場仮説は正しくない。

効率的市場仮説はどうしようもなく間違っており、それはあらゆる角度から論証することが出来る。はっきり言えば1万円札を落とすだけでも分かる。本質的にはそれで十分に証明である。だがサイモンズ氏の数学的証明が一番経済学者にとって反論の余地のない反証だろう。

残念ながらこれが大半の経済学者と数学者の頭の違いである。経済予想のできない経済学者が大学で教授のような顔をして学生に教えているのは嘆かわしいことだ。いい加減間違っているものは間違っていると認めてはいかがか。