引き続き、ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを長年運用していたことで知られるスタンレー・ドラッケンミラー氏のCNBCによるインタビューである。
今回はアメリカでインフレが再燃しかけている理由について語っている部分を紹介したい。
インフレの原因
アメリカでインフレが再燃しかけている。インフレ率は3%まで下がったものの、インフレ統計の詳細を見れば少なくともここから2%まで下がってゆくことはほとんどなさそうだということが分かる。
その原因は何だろうか。
ドラッケンミラー氏はコロナ後におきたインフレのそもそもの原因について次のように語っている。
バイデン政権はコロナ禍を見誤った。経済が恐慌になると誤認した。Fedもそう誤認したし、当時わたしもそう誤認した。
コロナ第1波におけるロックダウンによる米国のGDP減少は、5%程度だと筆者は見積もっていた。だが実際にはトランプ政権やバイデン政権によるGDP10%もの財政支出によってそれらの損失は打ち消され、むしろインフレが起こった。
多くの日本人は2022年からインフレについて騒ぎ始めたが、筆者は2020年後半にはインフレの危険性を警告していた。最初の記事は以下である。
だがその翌年の2021年になってもまだデフレを心配していた人がいた。その年に大統領に就任したバイデン氏である。
バイデン政権の財政支出
バイデン氏は、2020年のトランプ政権による財政出動ですでにインフレが心配されていたにもかかわらず、2021年に前年に劣らない規模の財政出動を行なった。
そしてそこから3年経った今経済政策はどうなっているか。Fedはインフレを抑制するために金利をゼロから5%まで上昇させた。
一方でバイデン政権の財政支出はどうなったか。流石に10%規模ではないものの、いまだ7%程度の財政出動をバイデン政権は続けている。
ドラッケンミラー氏は次のように述べている。
Fedは遅れたものの方向転換した。だが財政政策の方はいまだに経済が世界恐慌の中にあるかのように振る舞っている。
コロナ後の米国経済
確かにコロナ禍は世界恐慌に匹敵するほどの経済減速だったかもしれない。だがインフレを引き起こすほどの財政出動のあと、米国経済はどうなっているか。
ドラッケンミラー氏は次のように語っている。
民間部門は世界恐慌の時とはまったく違う。
民間部門の財政状況は問題なく健全で、しかも今ほど民間部門が利用できるイノベーションが充実している時代が他にあるだろうか? ブロックチェーンもあればAIもある。
リーマンショック以後、財政出動によって民間の債務は政府債務に置き換えられたために、家計と企業の財政状況は比較的健全である。
そして米国債の暴落が危惧されるような状況でも米国企業のイノベーションは健在で、特にAIはインターネットに匹敵する効果を生むかもしれない。
不必要にインフレを生む財政政策
いまだインフレが収まっていないのは米国経済が過熱しているからである。米国経済が過熱しているのは、政府が不必要な財政支出を行なっているからである。
ドラッケンミラー氏は次のように続ける。
政府はただ民間に任せて自由にイノベーションをさせておけば良かった。だがその代わりに政府は財政出動を続けた。
不必要な財政支出の理由は明らかである。政治家が票田にばら撒くためである。だから彼らは財政支出を止めない。経済にとって必要かどうかは関係がないのである。
また、金のない政府が財政支出をするためには国債を発行しなければならないので、政府は国債を市場で売らなければならない。国債が市場で売られると国債価格の下落と金利上昇を生む。
ドラッケンミラー氏は次のように述べている。
結果として金利が上がり、金利が低ければ借り入れによってイノベーションが起きていただろうに、政府債務がそうした借り入れをクラウディングアウトしている。
国債の発行過多で市場の金利が上がり、民間がローンを借りられなくなる。国の借金が民間の借り入れを押し出す形となる。これを経済学でクラウディングアウトという。
それがイノベーションを殺しているとドラッケンミラー氏は言う。しかも起こっているのは経済成長をそれほど増やさずにインフレを増加させている財政支出のためのクラウディングアウトなのである。
インフレ政策を助ける中央銀行
そしてインフレが収まらず経済成長が減速する今、Fedもまた政府のインフレ政策を助けようとしている。
ドラッケンミラー氏は次のように言っている。
財政政策が一番の問題だが、Fedもそれを助けている。
Fedは量的引き締めを600億ドルから250億ドルに縮小する。
FedはFOMC会合で量的緩和により買い入れた保有国債の規模を減少させる量的引き締めの縮小を決定した。
また政策金利についてもFedのパウエル議長は利下げをするためにインフレ再加速の脅威を無視したいようである。
この状況でインフレは本当に再加速しないのか。次のCPI(消費者物価指数)の発表が注目される。