ジム・ロジャーズ氏: 米国のインフレ率は上昇して金利は上がり株式市場に影響する

ジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを設立したことで有名なジム・ロジャーズ氏が、EGSI Financeのインタビューで米国のインフレと株式市場について語っている。

まだまだ高い株式市場

株式市場はやや下がったとはいえ、史上最高値に近い場所で推移している。

ロジャーズ氏は今の米国市場を眺めながら、次のようにいつもの皮肉で話を始めている。

株式市場にはこれが永遠に続くと思い込んでいる新人たちが大量にいて、彼らは友達に「株式市場という新しいものを見つけたんだ」「株式市場は楽しい」「お金も儲けられる」と吹聴している。

彼らは「しかも簡単なんだ」「簡単にお金を儲けられるんだ」と言って回っている。

株価の上昇で儲けることは何も悪いことではない。筆者にも買い持ちの銘柄はある。

だが、NISAブームのお陰で株は下落しないものだと思い込んでいる人々が一定数いて、彼らはインフレとは物価上昇のことだということを最近まで知らなかった人々のように、株価はたまには大きく下落するものだという衝撃の事実を遠からず知ることになるだろう。

ロジャーズ氏はこう続けている。

この光景はもう本当に何度も見た。

米国のインフレと株価動向

さて、真面目な話をしよう。何も考えずに株を買っている人には興味のないことだろうが、金融市場が今注目しているのはアメリカのインフレ動向である。

アメリカのインフレ率はピーク時の9%から3%台にまで下落したものの、その後下がることなく横ばいを続けており、筆者やラリー・サマーズ氏など一部の識者は年始から警告していたが、やはりインフレ加速の気配が見られる。

インフレが加速すると何故まずいかと言えば、Fed(連邦準備制度)が高金利を維持しなければならなくなる可能性が高いからである。

去年終盤からの株式市場の上昇は、インフレが収まってFedが利下げできるという希望的観測による上昇だった。金融市場は一時今年6回もの利下げを織り込んでいたが、今や1回の織り込みへと変わっている。

筆者やサマーズ氏の予想では、利上げの可能性さえ考えられるということになる。

ロジャーズ氏のインフレ予想

ではロジャーズ氏は、アメリカのインフレについてどう考えているのか。インフレはこのまま落ち着くのか、それとも再加速してしまうのか?

ロジャーズ氏は次のように主張している。

わたしの予想では、インフレはこのまま上がり、それが高金利に繋がるだろう。そうなれば株式市場と実体経済に問題が生じる。

ロジャーズ氏のこの予想は短期予想ではない。彼は次のように続けている。

まだそうなってはいない。だがその前兆は確認できる。

クォンタム・ファンド時代にはアナリストを担当し、売買タイミングについてはトレーダーのソロス氏にまかせていたロジャーズ氏は、しばしば自分を世界最悪の短期トレーダーだと自称し、積極的に短期的な予想をしようとはしない。

だが今回についてはなかなかタイムリーな予想になるかもしれない。今後のインフレ統計次第ではロジャーズ氏の予想が短期的に実現するシナリオが十分考えられる。

金利上昇の長期的意味

では長期的にはどうなるのか。金利上昇は短期的には株価を下落させるだけだが、長期的にはより重大な問題を引き起こす。

アメリカも日本も莫大な政府債務を抱えているが、コロナ前まではゼロ金利だったため、どれだけ借金が多くとも利払いはほとんど生じなかった。

だがインフレと利上げによって金利が上がってしまったため、今ではその莫大な国債に多額の利払いが発生している。米国政府のGDP比で見た利払いの額は次のように急増している。

もし高金利がこのまま続けば(インフレ再加速の兆候を見ればそうなりそうだが)アメリカの利払い負担はこのまま更に急増してゆくだろう。

米国経済の長期見通し

アメリカは借金の利払いをするために更に借金しなければならない。だが、その新たな借金にも高金利の利払い義務が生じる。

だから米国政府は長期的には詰んでいる。金利を下げなければならないが、ただでさえインフレが再加速しそうな状況で金利を下げれば、インフレは完全に再燃してしまうだろう。

これは借金にまみれた覇権国家の末期症状である。だから米国の機関投資家たちは米国株を避けて他の国の株式を買い集めている。

その状況下で米国株を買い集めているのが、ここに書いた米国の経済状況について何も知らない日本の個人投資家である。

アメリカは彼らが生まれた時から世界一の経済大国だった。だからそれが永遠に続くと思い込んでいる。

だが歴史を見ればそれが有り得ないことが分かる。経済はサイクルであり、レイ・ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で説明しているように、歴史上覇権国は100年から200年単位で次々に交代してゆく。

覇権国家のサイクル

ロジャーズ氏は次のように例を上げている。

1924年、イギリスは世界最大のもっとも豊かな国だった。

だが50年後、イギリスは破産しIMFがロンドンに行って彼らを救済しなければならなかった。

それはたった50年の間の変化だ。世界最大の富裕国が繁栄の頂点から破産まで行く。

ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』にも説明されているが、イギリスが覇権国家の地位を失ったのは、既に減速していた国力に見合わない戦争(第2次世界大戦や第2次中東戦争など)にのめり込んだことが一因である。

それはお金もないのに大金を注ぎ込んでウクライナやイスラエルに首を突っ込んでいる今のアメリカの姿と重なる。

結論

戦争も公共事業も大量の税金によって行われている。そして借金はどんどん増えている。

利払い急増が問題になって尚、アメリカは多額の財政赤字を垂れ流している。

それは問題ないのか。ロジャーズ氏は次のように言う。

アメリカはとんでもない量の負債を抱えている。

ワシントンの政治家は心配するなと言う。

日本でも政府の借金は問題ないと主張していた政治家が居たではないか。

確かに政府の借金は問題ない。何故ならば、政府債務は最終的には増税かインフレのどちらか(あるいは両方)で解決されるので、政府や政治家が困ることはないからである。

ということで、当たり前の帰結として増税とインフレが来ている。日本国民が待ち望んだおめでたい結果ではないか。

ロジャーズ氏は日本人に聞かせてやりたいコメントをしている。

ワシントンの政治家が心配するなと言うとき、わたしは本当に心配になる。

だが日本では誰も心配しなかった。

株価に対する金利上昇の短期的な影響について知りたい人は、以下の記事も参考にしてもらいたい。