4月29日の為替相場でドル円が一時5円以上も急落した。財務省と日銀による介入と思われるので、過去の為替介入の事例におけるドル円の動きなどを含めて解説してゆきたい。
ドル円急落
以下は4月29日のドル円の3分足チャートである。ドル円は朝10時台に一度160円の壁を突破したが、その後昼過ぎから急速に下落し、夕方には154円台半ばあたりまで下落している。
政府による為替介入の有無は後で公表されるまでは確定しないが、下げ方から言って恐らくは為替介入だろう。
為替介入と為替相場
為替介入だとして、介入が終わったかどうかもまだ定かではないわけだが、一般論として為替介入があった場合、為替相場はどう動くのか。
過去でもっとも最近に為替介入が行われたのは2022年であり、その時に経済学者でありアメリカの財務長官も務めたラリー・サマーズ氏が為替介入の効果について語っている。
サマーズ氏は次のように述べていた。
一般論で言えば、為替介入が為替市場に持続的な効果をもたらすかどうかには懐疑的だ。
為替市場は当局が利用できる資金量に比較してもあまりに巨大で、現代において為替介入が円の価値を維持するために継続的で大きな効果を発揮できるとすれば驚きだ。
財務長官として実際に為替介入の責任者であったサマーズ氏の言葉には説得力がある。
もちろん財務長官だった頃には「為替介入は効かない」などとは口が裂けても言えないわけだが、サマーズ氏の意見が正しいことは過去の介入の事例を見れば分かる。
2022年の為替介入
例えば2022年には9月22日、10月21日、10月24日にドル売り円買い介入が行われ、ドル円が下がった。
当時のドル円のチャートは次のようになっている。
何処が為替介入なのかが分かりにくい時点で、あまり効いていないことが分かる。だが9月22日と10月21日は上ヒゲと下ヒゲが長いロウソク足となっており、その上から下まで1日で落ちたことが分かる。
10月21日は金曜日で、翌月曜日にも介入が行われたから、2営業日連続の介入だったことになる。
9月のケースでは146円から140円あたりまで5円以上下落し、2日後には145円辺りまで戻っているので、2日で下落分を8割方取り戻したことになる。
10月のケースでは152円から翌営業日の下値である146円弱まで6円ほど下落し、その日の内に150円近くまで戻っているので、こちらも6割ほどはすぐに戻している。その後の11月の下落はアメリカの金利低下によるもので、介入とは関係がない。
1998年の為替介入
ドル売り円買い介入でそれより前のものは1998年まで遡る。この年は4月9日と4月10日、6月17日に介入が行われている。
ドル円のチャートは次のようになっている。
まず4月だが、9日は上下にヒゲが伸びている日付、10日は下ヒゲが伸びた赤いロウソク足で、その日の底値が4月の底値になっている。
こちらも134円弱から128円弱まで6円下落し、数日後には132円まで戻っているので、数日で6割ほど戻したことになる。
6月17日は長さが一番長い赤いロウソク足の日である。その日の天井144円から136円まで8円分下落したが、その後1週間ほどで143円まで7円分戻しているので、下落分を8割方戻したことになる。
1997年の為替介入
その前は1997年の為替介入で、12月17日から19日まで3日間行われている。
だが12月17日にはドル円が大きく下落しているものの、18日と19日は効いておらずドル円は上昇している。
17日の下げ幅は132円弱から126円弱のおよそ6円で、数日後には131円弱まで戻しているので、このケースでも8割方下落分は取り戻されている。
結論
ということで、以上を纏めると為替介入は1日から3日ほどで行われ、下落幅は5円から8円程度だが、遅くとも1週間ほどの間にその下落分の6割から9割ほどは元に戻ってしまい、その後の動向は金利など為替相場を動かす元々の要因次第だということになる。
結局、為替介入は費用のわりに効果が薄いのである。だからサマーズ氏は別の記事では皮肉まじりにこう言っていた。
日本の為替介入のような場合、つまり為替介入が金融政策の方向に反するものである場合、それが為替レートの道筋を本当の意味で変える可能性と同時に、投機家に絶好の機会を与える可能性も考えるべきだろう。
はっきり言うが、為替介入がドル円の長期的な見通しを変えることはない。貴重な外貨準備(これも税金である)を消費して守られるのは財務相のメンツだけである。
円安を止められるかどうかは結局は日銀の金融政策次第なのだが、以下の記事で書いたようにそちらはあまり期待できないだろう。
今回の介入はどうなるか。以上の考察のように引き続きの介入の可能性は五分五分といったところだが、過去の事例を見れば何処まで下がるかが分かるので、日銀の為替介入は筆者のようなトレーダーにとっては餌場に過ぎないのである。