世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、自社の動画配信におけるインタビューで今年のアメリカ大統領選挙について語っている。
2024年アメリカ大統領選挙
今年はアメリカで11月に大統領選挙がある。候補者については色々言われたが、結局のところ民主党からはバイデン氏、共和党からはトランプ氏ということになるようである。
それは同時に、投資家はそろそろ新政権の政策について考えなければならないということを意味する。それが株式市場などの動向を決めるからである。
ということで、ダリオ氏はトランプ氏とバイデン氏それぞれが当選した場合の政策について語っている。
トランプ氏の政策
今回はトランプ氏の部分を取り上げるが、ダリオ氏は次のように述べている。
大統領選挙の候補者の政策について話してみたい。
ドナルド・トランプ氏の政策はより国粋主義的で孤立主義的で自由市場・資本主義的になるだろう。
そうした政策はどういう影響を及ぼすか。インフレと貿易と世界情勢に影響を及ぼすだろう。
まず思い出してほしいのは、前回のトランプ政権の経済政策が減税と財政出動だったことである。
トランプ政権の初期には、まず法人減税によって株価が高騰した。その後インフレの予想から金利と銅価格が上がるというインフレ相場へと発展した。政治的にトランプ氏を嫌ったジョージ・ソロス氏が感情的にトランプ相場を空売りして手痛いダメージを受けたことが思い出される。
その後金融引き締めによる2018年の世界同時株安などに繋がりながらも、最終的には2020年のコロナ禍における莫大な現金給付という超インフレ政策へと発展し、それはバイデン政権に受け継がれることになった。
コロナ後の物価高騰の原因は彼らの現金給付である。
ダリオ氏はトランプ氏再選がインフレに影響を与えることの詳細を語っていないが、代わりにポール・チューダー・ジョーンズ氏がインフレの問題がどうなるかについて、トランプ氏とバイデン氏に関して次のように言っていたことを思い出したい。
問題なのは、大統領としてわれわれが選ぶ選択肢が、まさにわれわれをこの状況に追い込んだ張本人2人だということだ。
それが恐らく現在株式市場が高止まりしている理由の1つでもある。株式市場は彼らがインフレを抑えるということを信じていない。
また、インフレに関してはもう1つの懸念もある。トランプ氏の保護主義的政策が、同時にインフレ的でもあるということである。
例えば中国の製品に関税をかけるなどの政策は、アメリカ国内の消費者にとっては輸入製品の値上がりを意味する。こうした財政政策と保護主義政策の両面におけるインフレ懸念を心配しているのは筆者だけではないだろう。
アメリカの外交政策
また、覇権国としてのアメリカの立ち位置はどうなるか。ダリオ氏は次のように述べている。
世界情勢でも地政学的な意味では、米国は同盟国にとってこれまでと同じ同盟相手ではなくなるだろう。
これまでと同じような同盟相手でいてほしいなら、そのための費用を米国はもはや負担しなくなる。それは一部の戦争地域からの米軍の撤退を意味する。
まず、トランプ氏はウクライナ戦争に1日でケリを付けると言っている。ビジネスマンらしく、戦争を長引かせるのではなく、お互いの利害に着目して妥協点で手打ちにするのである。
トランプ政権における1つの功績は、トランプ氏が政権を握った4年間、他の歴代大統領と比べて確かに他国との紛争が少なかったということである。
彼は大統領になる前、アメリカが他国の政権転覆にかかわることを止めさせると言っていた。彼はそれをある程度守った。例外はシリアの空港にトマホークを打ち込んだこと、そしてイランの司令官を殺害したことである。
一方でバイデン氏はウクライナとイスラエルを支援してロシアとイランと戦争をしている。ウクライナは、一般の信じるところとは違い、アメリカの帝国主義政策の犠牲者である。
ウクライナは元々、ブダペスト覚書によって、核兵器の保有を放棄する代わりにウクライナに何かあった場合にはアメリカなどが安全保障を担当するという約束を得ていた。
アメリカはその名目のもとウクライナの反ロシア化を煽り、ウクライナの大統領選挙に公に介入した後、親米化したウクライナ政権を補助金漬けにしたのである。少し調べればすぐに分かるがこれは事実である。
こうしてアメリカの後ろ盾を得たと勘違いしたゼレンスキー大統領は、ロシア侵攻の数日前にミュンヘン会議でロシア向けの核兵器の保有をほのめかした。ロシアと何かあってもアメリカが後ろにいると思って調子に乗ったのである。
そして実際に戦争になった時、ブダペスト覚書は法的効力を持たないという理由でアメリカは助けには来なかった。
結論
ウクライナ情勢は実は台湾と日本にとって彼らの懸念の模範解答的な立ち位置にある。アメリカが後ろにいると思って調子に乗っている最近の台湾の政治的トレンドは、ロシア侵攻前のゼレンスキー氏に非常に似ている。
台湾や日本を中国から守ると言い、台湾と中国の反中を煽りはするものの、ウクライナの件と同じくアメリカはこれらを防衛する法的義務を負っていないのである。
中国と戦争になればアメリカが守ってくれるかという問題は、筆者には笑い事である。ウクライナが既にそれを試したからである。単に日本は「思いやり予算」なるものを毎年米軍に無償提供しているに過ぎない。
こうしたアメリカの対外政策を象徴しているのが今のバイデン大統領である。
こうした意味から、地政学的な側面で言えばトランプ氏の再選は良いことだと筆者は考えてきた。だがイスラエルとパレスチナの紛争についてはそうとも言えない。トランプ氏はアメリカ国内のキリスト教保守派を支持基盤としており、彼らはイスラエルを支持している。
だからパレスチナ問題についてはトランプ氏は使い物にならないかもしれない。それが地政学的に見た、筆者にとっての来年のトランプ政権である。
経済政策で見たトランプ政権は、やはりインフレだろう。しかし今回のトランプ・インフレ相場は、前回と同じようには行かないかもしれない。