EVの需要減速はプラチナ価格を復活させられるか

アメリカやヨーロッパなどでEV(電気自動車)の売れ行きが減速している。それと同時にハイブリッド車の売れ行きが伸びているという。

このEVからハイブリッドへのシフトは自動車メーカーの株価に影響を及ぼすだけでなく、金属市場にも大きな影響を与えると思われる。

EVからハイブリッドへ

欧米諸国でEVが売れなくなっているらしい。理由は簡単である。充電に時間がかかり、補助金がなければ価格も高く、何より大して環境に良いわけでもないからだ。

例えば欧州自動車工業会のデータによれば、去年の新車販売でEVの割合は15%だった一方で、ハイブリッドは34%だった。エンジン車の49%と合わせると8割以上がエンジン搭載車ということになる。

充電場所もほとんどないにもかかわらず早々とEVを買った人々は、脱炭素政策を熱心に支持する政治的にリベラルな人々である。

だがどうも欧米諸国では、そうした宗教的理由によって不便でもEVへの乗り換えを選んだアーリーアダプターへの普及は終わってしまったらしい。

そして宗教的理由のない一般の消費者は、欧米でも不便さや追加のコストを受け入れてまでEVを買おうとはしていないようだ。

株式市場への影響

そうした流れは先ず株式市場に影響を及ぼす。EVの普及スピードに恩恵を受けてきたのはまずTeslaだが、アメリカでもTeslaの売れ行きは鈍化しているようで、最近の決算、特に業績見通しが期待はずれに終わり、Teslaの株価は下落トレンドに入っている。

EVの売上急増はTeslaの高成長と連動していた。EVが急激に台頭する限りTeslaの株価も急激に上がっていった。

だが今ではEV全体の売上自体が鈍化しているなかで、EVにおけるTeslaのマーケットシェアも中国のBYDなどに猛追されている。アメリカでは今年か来年には抜かれるのではないかと言われている。

ハイブリッドの普及と株式市場

そしてEVの販売鈍化は、その代わりにハイブリッド車が売れているということでもある。

欧米の自動車メーカーは欧米の政府のEVシフトという言葉を信じてハイブリッドにほとんど力を入れてこなかったので、その需要に対応できていない。

一方で、それでもEV普及が無理だと予想して意地でもハイブリッドを作り続けたメーカーがある。トヨタ自動車である。

だからEV需要減速でTeslaの株価が下がる中、トヨタの株価は急上昇している。

こうした流れを見ながら考えたことがある。この流れは単に自動車メーカーの株価に影響するだけのものではない。他にも影響を受ける市場がある。

例えば金属市場である。自動車には様々な金属が使われていて、その種類はEVかハイブリッド車かガソリン車かによって異なる。

そしてハイブリッドやガソリン車などのエンジン搭載車に使われていて、EVにはほとんど使われていない金属が存在する。プラチナである。

プラチナ相場への影響

プラチナは排気ガス中の有害成分を浄化するための三元触媒コンバーターに使われている。三元触媒コンバーターはプラチナ、パラジウム、ロジウムによって一酸化炭素などを除去するもので、排気ガスの存在しないEVには当然不要なものである。

プラチナの需要のうち自動車触媒への使用は約4割ほどを占めており、EVへのシフトが実現すればこれらの需要がなくなるため、プラチナはEVシフトにおいて金融市場でもっとも割りを食う銘柄として嫌われてきた。

だから最近の貴金属の価格上昇にもかかわらず、プラチナ価格はまだそれほど上がっていない。

プラチナ価格は次のように推移している。

ゴールドは次のように推移している。

シルバーも同じように上がっている。

プラチナ相場は挽回できるか

最近の価格推移に限らず、そもそもプラチナ相場は金相場や銀相場に比べて長期的にも低迷していた。貴金属相場はコロナ後のインフレによって大きく上がったにもかかわらず、プラチナだけはそうなっていない。

金相場の長期チャートは次のようになっている。

金価格はリーマン・ショック後の量的緩和バブル(2011年)の高値を超えて史上最高値付近で推移している。

一方で、ここでは何度か指摘してきたが、シルバーはゴールドに比べて割安なままに留まっていた。銀価格の長期的な推移は次のようになっている。

リーマンショック後の高値を超えていない。だがこれよりも低迷しているのが次のプラチナ相場である。

ほとんどリーマン・ショック時の底値付近で推移している。

結論

以上、貴金属3銘柄の長期チャートをよく比べてみてほしい。プラチナだけ異常な安値である。

プラチナ相場の長期低迷はEVへのシフトによって需要の4割が脅かされるという見通しが理由だった。

一方で、コロナ後のインフレがまだ収まっておらず、インフレ相場がこれからも継続してゆくならば、投資家にとって貴金属は美味しい投資対象である。1970年代のインフレ相場で貴金属がどれだけ上がったか、以下の記事で解説している。

貴金属で一番割安なのはプラチナなのだが、EVによる需要減少が懸念材料となって、筆者は次に割安なシルバーがインフレ対策として良い銘柄だとここでは紹介してきた。

シルバーも十分割安なのだが、もしEVへのシフトがそれほど進まず、ハイブリッド車が普及するとすればどうだろうか。プラチナ相場に対する長期の懸念が吹っ飛ぶことになる。

そもそもEVの台頭によるプラチナの需要減少はまだほとんど起こっておらず、これからそうなるという長期的な予想によってプラチナ相場は長らく低迷してきたのだが、ハイブリッド車の好調によってその需要減少予想が大幅な見直しを迫られるとすれば、プラチナ相場の長期低迷も大幅な見直しを迫られるのではないか。