景気後退になれば株価は必ず下落するのか?

ここでは景気の良い時も景気の悪い時もGDP統計やインフレ統計や雇用統計などの経済データを紹介し、実体経済の先行きがどうなるかを考察している。

それは株価と景気が密接な関係にあるからだが、今日はその話をしたい。

景気後退ならば必ず株価下落か?

筆者はほとんど常に景気後退を気にしている。GDPが好調な時でも小売店売上やクレジットカードの返済遅延率に景気減速の兆候があれば、それがより主要な指標に広がり経済全体が景気後退に陥るかどうかを考える。

それは景気後退が株価に影響を及ぼすからである。だが景気後退になれば株価は必ず下落するのだろうか? それを考えるには過去の景気後退の時期における株価の推移を考えてみれば良いだろう。

ということで、米国株の歴史を遡りながら景気後退の時期を順に辿ってゆきたい。

2020年コロナショック

米国経済が最近景気後退に陥ったのは2020年のコロナショックである。以下は米国株(S&P 500は古いチャートが載せられなかったので今回はNASDAQで代用している)のチャートで、灰色部分が景気後退である。

コロナショックは株価の下落速度も、状況が起こってから景気後退になるまでの速度も極めて早い相場だったと言える。

だが当時の相場をトレードしていた感覚では、世界中に広がりつつあったコロナを株式市場はなかなか織り込まなかった。世界各国に感染者が確認されてから2週間ほどは株高が続いていた。筆者は航空株など明らかに影響を受ける銘柄を空売りしていたが、結局は株式市場全体が下落することとなった。

2008年リーマンショック

逆に景気後退よりも早く株価が下落を開始したのが2008年のリーマンショックである。

株価の天井は2007年11月である。景気後退は2008年第1四半期だが、第1四半期のGDPデータは4月末に公開されるので、減速がはっきりする半年前には下落が始まったということになる。

だがジョージ・ソロス氏は2007年春にはリーマンショックを予想していたようだ。リーマンショック前に書かれた著書『ソロスは警告する』でソロス氏は次のように書いている。

2007年春、ついに終わりのはじまりがやって来る。住宅ローン大手のニュー・センチュリー・ファイナンシャル社が、サブプライム問題が原因で倒産したのだ。

そこから先は、私のバブルのモデルでいう「黄昏の期間」である。住宅価格が下がりはじめているにもかかわらず、ゲームの終了が読み取れない参加者が、まだ大勢残っている段階だ。

そもそもソロス氏は2006年には住宅バブルの危険性を指摘していた。バブル崩壊が近づいたと感じたのが2007年春ということになるが、株価はそこから半年上がり続けた。

そして株価のピークから更に半年経って経済の様子がはっきりしてきたということになる。

2000年ドットコムバブル崩壊

次は2000年のドットコムバブル崩壊である。

この例ではリーマンショックとは違い、実体経済の不調を予期して株価が下がったというよりは、株式市場の下落が実体経済に影響を与えた。

この暴落は2000年前半頃までは上昇相場における一時的な調整だと考えられていた節がある。以下の記事でスタンレー・ドラッケンミラー氏が、当時下落したと思った株価が再び反発していた驚いた様子を伝えている。

だから人々が慌て始めたのは2000年後半からであり、中央銀行は年末に利下げを開始しているが、結局は2001年前半に景気後退となっている。

1990年オイルショック

景気後退は見事にほぼ10年間隔で起きているが、次は1990年のイラクによるクウェート侵攻を発端とするオイルショックである。

シェールオイル技術の発展によって今でこそ米国は世界有数の産油国だが、当時の原油相場はOPECに支配されていた。

中東危機によって原油価格は高騰し、アメリカなどの当時の原油輸入国はエネルギー価格高騰の影響を受けたわけである。

株式市場の下落開始はイラクのサダム・フセイン大統領がクウェートを非難した1990年7月17日である。クウェート侵攻は8月2日だった。

景気後退の開始は1990年第3四半期と株価の下落と同期間なので、このケースもコロナショックと同様の急展開である。当時の原油価格の急騰を見れば、状況が素早く発展していったことが分かる。

この辺りにしておこう。更に続けて過去50年分遡ってみたが、アメリカ経済が景気後退になって米国株が大きな下落を伴っていない期間はない。

景気後退と株価下落の前後関係については様々である。コロナショックや1990年オイルショックのように株価と経済がほぼ同時で沈んだケースもあれば、リーマンショックのように株式市場が景気後退を半年ほど先読みしたケースもあれば、ドットコムバブルのように株価の下落が景気後退の原因となったケースもある。

だが景気後退になって株価が下落しなかった事例は存在しなかった。

結論

景気後退は滅多に来るものではない。10年に1回か2回程度のものである。

だがそれが来る時には株価も大きく下落するので、常に経済に目を向け、クレジットカード返済遅延率などGDPよりも先に下落する先行指標を監視することで景気後退が近づいているかどうかを考えておく必要があるのである。


ソロスは警告する