日銀、マイナス金利とETF買い入れを終了、量的引き締めを視野に

3月19日、日本銀行は金融政策決定会合でマイナス金利とイールドカーブコントロールの廃止、そしてETFの買い入れ終了を決定した。

緩和撤廃

長らくマイナスとなっていた日本の政策金利がプラスに戻った。政策金利は利上げによって-0.1%から0.1%に上げられた。国債の買い入れによって長期金利に上限を設定するイールドカーブコントロールも撤廃された(国債買い入れ自体は継続である)。

アベノミクス以来のインフレ政策のうち象徴的な2つが終わらせられたわけである。植田総裁は会合後の記者会見で次のように述べている。

これまでのイールドカーブ・コントロール、およびマイナス金利政策といった、大規模な金融緩和策は、その役割を果たしたと考えている。

日銀のインフレ政策はドル円の上昇によって日本経済にきっちりと輸入物価上昇をもたらし役目を終えてくれた。

利上げは17年ぶりであり、歴史的転換点なのだが、サプライズはない。日銀がマイナス金利を撤廃するということが事前に報道で流れていたからである。当然日銀が流したわけで、その分株式市場にショックはなかったが、一時円高に振れていた為替市場では円安に戻ってしまった。ドル円は以下のように推移している。

長期金利もほぼ反応していないので、輸入物価に影響するドル円と住宅ローンや企業の設備投資などに影響する長期金利という、インフレに直接働きかける2つの数字が変わっておらず、今回の緩和終了措置がインフレを止める方向に働くかは微妙である。

だが植田総裁は市場にショックのないやり方を選んだ。植田総裁としては実際の効き目よりも、アベノミクス以来の前任者が行なったインフレをもたらすインフレ政策をとっとと終わらせてしまいたかったということなのだろう。

今後の金融政策

さて、このように-0.1%から0.1%への0.2%の利上げ自体は市場にほとんど影響をもたらさなかった。大手メディアでは「マイナス金利解除で生活はどう変わるのか」などと騒いでいるが、ドル円と長期金利の動きを見ればほとんど影響のないことは一目で分かる。記事を書く前に主要なチャートぐらいは確認すべきである。

1回の小幅な利上げよりも重要なのは、利上げが今後も継続するのかどうか、そして国債買い入れ(つまり量的緩和)がどうなるのかである。

まず利上げについてだが、植田氏は次のように述べている。

金利を引き上げるペースは経済物価の見通し次第になる。ただし現在手元にある見通しを前提にすると、急激な上昇というのは避けられると見ている。

また、国債を買い入れる量的緩和については次のように述べている。

大規模な緩和の終了後はバランスシート縮小を視野に入れていくというつもりでいる。将来のどこかの時点で買い入れ額を減らしていくということも考えたいと思うが、今具体的に申し上げられる段階ではない。

金融政策と日本経済

要するに、利上げも量的緩和終了も考えているが、それほど急なペースでは行わないという当然予想される答弁がなされている。やや驚いたのは、量的緩和の停止だけではなくバランスシートの縮小、つまり買い入れた国債の保有額を減らす量的引き締めまで視野に入れていると今の段階で宣言したことだろうか。

だがいずれにせよ、急激な引き締めは行わないというのは単に市場をなだめるための方便ではなく、実際にそのようになりそうである。

何故ならば、日本経済が減速してきているからである。

先ず、現在日本の実質経済成長率は0.4%まで落ち込んでおり、景気後退寸前である。日銀にとっては幸いなことにインフレ率もここ数ヶ月は減速傾向にあるのだが、インフレ率よりも景気の方が沈んでいるように見える。

つまり、景気が沈んでもインフレがなかなか収まらないスタグフレーションの状態に近づいていると言える。日銀はその状態で利上げを行わなければならなかったのであり、その一因は植田総裁にもあるだろう。

植田氏は、本来総裁候補として本命だった前任の副総裁たちが自分たちの推進したインフレ政策の後始末をやらされるのを嫌がって総裁に就任しなかったために急遽名前が上がって起用された経済学者である。

だからインフレ政策の後始末について彼を責めるのは可哀想なのだが、やはり利上げは日本経済の景気がもっと良かった時にやってしまうべきだっただろう。それが景気後退寸前の今になってしまったのは、慎重な植田氏の性格が裏目に出たと言える。

結論

株式市場の盛り上がりとは裏腹に、スタグフレーション寸前で金融引き締めをやらなければならない日本経済の今の状態は控えめに言ってもかなり最悪である。株式投資家は日本の企業利益がここからどうなるかを考えるべきだろう。ほとんどの株の保有者は企業利益など考えていないのだろうが。

経済の調子がこのまま悪ければ、植田氏の言うように引き締めはそれほど急には続かないかもしれない。だが、インフレ加速で金融引き締めでも、このまま景気後退に突入するにしても、株価にとっては悪いニュースである。

だが量的引き締めの話が出たので、投資家としてはそのシナリオを考える必要がある。利上げと金融引き締めが株価にどういう影響をもたらすかを考えるには、2018年のアメリカの事例を参照すべきだろう。

量的引き締め(バランスシート縮小)は、アメリカではまず量的緩和を停止した後に2017年に開始された。

量的緩和で株価が上がったのだから、その逆回しである量的引き締めで株価が下がるのは当然である。だがタイミングについては別の問題であり、株式市場はそのまま量的引き締めを無視し続け、本格的な株価下落となったのは2018年の後半だった。筆者も当時、空売りのタイミングをそこまで待っていた。

だから当時のアメリカのケースでは、まず量的緩和を停止し、その後量的引き締めを行なってから1年ほど株式市場は持ちこたえたということになる。

日本は量的引き締めどころか量的緩和の停止もこれからの状況にある。だから、量的引き締めまで到達して株安になるよりは、その前に日本経済が力尽きてしまう可能性の方が高い。

景気後退か金融引き締めか、今後の動向を見極めるには日本のインフレ率を分析し予想してゆくほかない。インフレ率が下がっていけば、植田氏にとっても幸運なのだが。

ちなみに日本のCPI(消費者物価指数)は今も日本政府による歪曲が続いているので、報道されている数字をそのまま信じてはならない。詳細は以下の記事を参考にしてもらいたい。