アメリカ大統領選挙の投票日直前である。ドナルド・トランプ氏が勝つのか、ヒラリー・クリントン氏が勝つのか、結果予想をしたとしても所詮は当て物でしかないが、しかし投票日直前でどちらの候補がどの程度優勢であるのかを見極めることは出来る。そしてそのためには全米における支持率ではなく、州別の支持率を見る必要がある。これはアメリカ大統領選挙の仕組みのためである。
2016年のアメリカ大統領選挙はどうなるだろうか? トランプ氏が勝つ可能性はどれくらいあるだろうか? 結論から言えば、フロリダ州とペンシルバニア州の2つの州がすべての結果を決めることになるだろう。
アメリカ大統領選挙の仕組み
先ず、上記の記事でも説明したことだが、アメリカ大統領選挙では各州の人口に基づいて州に票数が割り当てられており、集票はそれぞれの州における「勝者総取り方式」で行われる。つまり、ある州で勝った候補者はその州に割り当てられた票数をすべて獲得することが出来る。
例えばカリフォルニア州は55票、テキサス州は38票を持っており、全米で270票獲得した候補の勝利となる。
RealClearPolitics(原文英語)の纏める最新の州別世論調査によれば、クリントン氏寄りの州、トランプ氏寄りの州、そして接戦の州(スイング・ステートと言う)の票数はそれぞれ以下のようになる。
- クリントン氏寄り 216票(カリフォルニア州など)
- 浮動票 158票
- トランプ氏寄り 164票(テキサス州など)
これでもかなり接戦になった方だが、それでもクリントン氏の優勢は明らかである。そもそもこの「勝者総取り方式」はカリフォルニア州の55票とニューヨーク州の29票をほぼ無条件で獲得できる民主党有利に出来ている。票数の多い州で勝てば、その分忘れ去られる相手側の票が多いからである。
スイング・ステートの動向
しかし選挙は結局はスイング・ステートの動向で決まる。浮動票の158票に当てはまるのはフロリダ州やオハイオ州など14の州であり、どの州も接戦であることは変わらないが、どちらかと言えばクリントン氏寄りの州を並べると以下の通りである。括弧内は票数である。
- フロリダ (29)
- ペンシルバニア (20)
- ミシガン (16)
- コロラド (9)
- ニューメキシコ (5)
- メイン (2)
- メイン第2区 (1)
トランプ氏寄りのスイング・ステートは以下の通りである。
- オハイオ (18)
- ジョージア (16)
- ノースキャロライナ (15)
- アリゾナ (11)
- アイオワ (6)
- ネバダ (6)
- ニューハンプシャー (4)
合計すると、クリントン氏寄りが82票、トランプ氏寄りが76票となり、これにスイング・ステート以外の票数を足せば、全米の情勢は以下のように纏められる。
- クリントン氏寄り 298票
- トランプ氏寄り 240票
意外と接戦ではないか? トランプ氏が270票を獲得して勝利するためにはクリントン氏寄りの州をいくつか覆せば良い。だからトランプ氏はフロリダやペンシルバニアに頻繁に飛び、集会を行っているのである。
フロリダとペンシルバニア
この状況でフロリダ州の29票とペンシルバニア州の20票は非常に大きな意味を持つ。この2州で逆転すればトランプ氏寄りの州は270票を超える。だからクリントン氏も最後の週末にフロリダに飛び、支持を呼びかけた。まさに激戦区なのである。
フロリダの世論調査を見てみよう。これまで行われた5つの世論調査は以下のようになっている。以下は調査会社の名前、優勢の候補者、支持率の差の順である。
- FOX 13 – Clinton +4
- Gravis – Clinton +3
- Remington Research – Trump +4
- Quinniplac – Clinton +1
- CNN – Clinton +2
クリントン氏が優勢だが、大差とは言えない。トランプ氏優勢の世論調査もある。ではペンシルバニアはどうか?
- Harper – Tie
- Morning Call – Clinton +4
- Gravis – Clinton +2
- Susquehanna – Clinton +2
- Monmouth – Clinton +4
Tieは引き分けである。こちらも明らかにクリントン氏優勢だが、覆せないほどの大差ではない。これを見ると、トランプ氏の勝利は不可能ではないことが分かるが、これら2つの州で逆転した上に自分寄りの州を失ってはならない状況であり、イギリスのEU離脱よりも状況は不利だと言える。単純に全米の支持率の比較で選挙が決まるわけではないからである。
結論
大統領選挙は決してこれまでメディアが報じてきたようなワンサイドゲームではない。10月末にトランプ氏の支持率優勢の報道がされる前からそうであったし、投票日直前となった今もそうである。
しかし各州で票が勝者総取りとなるアメリカ大統領選挙の仕組みは明らかにトランプ氏の不利に働いており、しかも大企業、メディア、政治家のどれもがヒラリー・クリントン氏の裏で結託している状況下でここまで接戦となっていることが奇跡と言うべきだろう。
結局、今回の大統領選挙もイギリスのEU離脱に反対してきた勢力が、クリントン氏の側に回っているのである。その中には投資家のジョージ・ソロス氏も含まれている。その根は日本の読者が思っているよりも非常に深いものである。
選挙結果が分かるのは日本時間で9日と思われる。ここでは特にフロリダとペンシルバニアの状況に注目しながら、逐次結果を報じてゆくつもりである。