10月の前半に金相場が急落したことはここでも報じている通りだが、その後11月に入り金価格が1,300ドル台を回復している。チャートは以下の通りである。
急落直後の記事で述べた通り、そもそもこの下落自体が不合理で感情的な市場の動きであったから、今回の反発はそれを単に修正しただけであると言える。このことは実質金利のチャートを見れば一目瞭然である。
実質金利
これまで何度も述べている通り、金価格は実質金利と基本的には反相関となる。実質金利とは名目金利に期待インフレ率を差し引いたものだから、デフレと低金利がプラスとなる金価格と、デフレと低金利で下落する実質金利とはファンダメンタルズ的には逆の動きをする。
しかしながら、10月の始めには実質金利が下落していたにもかかわらず金価格が下落した。当時の記事ではこの現象を、12月の利上げを前に短期的な投機筋が逃げ出した感情的な動きとして批評し、長期的にはそうした動きは続かないことを主張した。以下の通りである。
ここまで考えれば、今回の金下落の性質が見えてくる。これまでアメリカ経済の減速による利上げ観測の意外な後退によってゴールドを買い進めていた投資家たちが、2016年末の2度目の利上げを前にして、利上げがあるのであれば現在の金価格は上がりすぎだと感じたのだろう。
それは金利とインフレ率を考慮した学術的な投資判断ではなく、感情的で投機的な動きである。しかし金相場はそういうものに左右されるのだということは、頭に入れておくべきである。
一方で、金相場の長期見通しはやはり実質金利に左右される。長期のチャートを見れば、金相場と実質金利の反相関が大幅に外れたことはなく、そして理論的にもやはりインフレと金利が金価格を左右すると判断すべきである。
したがって今回の金相場の反発は単に金価格下落の不合理が元に戻っただけであるということが言える。もし当時、慌てて金を売ろうかと考えていた読者が居て、上記記事で踏みとどまれたとすれば、それ以上のことはないだろう。
不合理な動きは続くか?
しかしながら、短期的にはこうした不合理は続く可能性はある。米国株が下落していることから金利先物市場における12月利上げの織り込みがやや後退して66.8%となっており、もし利上げとなれば、少なくとも33.2%分の利上げの衝撃は覚悟しておくべきということである。それほど大した大きさではないと思うが、数値は覚えておくべきだろう。
12月の利上げの有無は米国時間11月8日の大統領選挙の結果にも左右されるかもしれない。仮にトランプ氏勝利となれば金融市場が荒れる可能性がある。個人的な意見としては、減税と財政出動を主張するトランプ氏が大統領となれば、ファンダメンタルズ的には米国株が上昇する可能性を懸念しているのだが、少なくとも短期的には市場はそう捉えない可能性がある。イギリスのEU離脱の時と同じである。
ただ、もし大統領選挙の結果によって市場が荒れることがあれば、イエレン議長にとってはタカ派の連銀総裁を説得するための格好の材料となる可能性がある。時代遅れの経済モデルに執着する連銀総裁に囲まれて、彼女はほとんど孤立無援の状態となっている。
大統領選挙については、個人的にはそれでも市場が長期的にそうした荒れ方をすることはないと思うのだが、いずれにせよ選挙の結果を待つこととしよう。金相場の長期見通しについては以下の記事から変わっていないが、短期的なリスクは当時よりもかなり減ったと言うべきだろう。