引き続き、アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏のBloombergによるインタビューである。今回はFed(連邦準備制度)の金融政策について語っている部分を取り上げたい。
利上げとインフレ率
アメリカではFedの利上げによってインフレ率が3%台まで下がったが、その後横ばいとなっており、これが2%まで落ちてくるのか、あるいは上昇に転じていくのかが問題となっている。
インフレ率のグラフは次のようになっている。
Fedはこれから利下げをすると言っているが、利下げをするためには何処まで利下げすれば十分に下げたと言えるのかを考えなければならない。
そこでサマーズ氏は前回、経済に好影響も悪影響も及ぼさない中立の金利水準、つまり中立金利がコロナ後に大きく上がっていると指摘していた。
だから現在5.25%を中立金利まで下げたとしてもそれほど大幅な利下げにはならないし、なってはならないとサマーズ氏は考えているのである。
彼はこう続けている。
中立金利は2%台であるよりも4%台である可能性が高いという考えに気付く必要がある。
中立金利が4%台であれば、今から3回か4回の利下げで中立金利に届いてしまうわけである
2024年の利下げ
実際にはFedの利下げはどうなるか。サマーズ氏は次のように述べている。
Fedはここ数年の金融政策から金融緩和へとパラダイムシフトするにあたって、非常に気を付けなければならない。
Fed自身は今年3回の利下げを表明している。金融市場の見通しは元々はそれとは違った。サマーズ氏はこう説明する。
金融市場は2024年内に6回の利下げを想定していたが、今では利上げ織り込みは3回になっている。
金融市場は利下げを多く見積もりすぎていた。それを修正したのだから、市場では金利が上がったことになる。
今後の政策金利の市場予想を織り込んで推移する2年物国債の金利は次のようになっている。
金利は6回の利下げを織り込んでいた年末年始の頃から見るとやや上がっている。
アメリカの金利の推移見通し
では金利はこれからどうなるのか。サマーズ氏は次のように言っている。
この傾向はしばらく続くだろう。わたしの予想では利下げ期待は今後更に修正されることになる。そしてFedは最終的には今の市場の想定ほどには利下げしないということになるだろう。
わたしは数週間前にこの番組で、今年利下げがない確率が15%だと言った。
それからその15%という確率はどちらかと言えばやや上がっただろうし、オプション市場などを見ると市場もそれに同意しているように見える。
株式市場はこれまで金利低下を頼りに上がってきた。一方で、インフレはそれほど簡単には下がってはくれない。
また、最新の雇用統計は賃金インフレが落ち着くのであれば失業率上昇などの副作用からは逃れられないという当たり前の結論を示している。
失業率上昇でいよいよアメリカの景気が怪しくなってきたこと、そして経済指標が悪化しているにもかかわらずインフレは根強くそれほど利下げできるわけでもないこと、それがアメリカ経済の問題である。バブル崩壊前はいつもそうなのだが。
また、日本でも経済がかなり弱ってきたこの時期に日銀が利上げをするかしないかという話になっている。景気後退になりかかっているのに利上げの話をしている深刻さを株式市場はまだ理解していないようだ。
株式市場は熱狂しているが、そろそろバブル崩壊の足音が聞こえてきたと筆者は感じている。多分、株価の下落開始は年内だろう。ジョージ・ソロス氏がリーマンショック前夜に著書『ソロスは警告する』で書いていた次のフレーズが思い出される。
2007年春、ついに終わりのはじまりがやって来る。住宅ローン大手のニュー・センチュリー・ファイナンシャル社が、サブプライム問題が原因で倒産したのだ。
そこから先は、私のバブルのモデルでいう「黄昏の期間」である。住宅価格が下がりはじめているにもかかわらず、ゲームの終了が読み取れない参加者が、まだ大勢残っている段階だ。
ソロスは警告する