ドラッケンミラー氏: リスク管理を知らなかったから大きく賭けられた話

引き続き、スタンレー・ドラッケンミラー氏のHow Leaders Leadによるインタビューである。

ドラッケンミラー氏の修行時代

前回の記事では、若き日のドラッケンミラー氏が25歳にして株式調査部の部長になった話を紹介した。

当時、1970年代のインフレ相場で株式市場が長期低迷し、その相場を経験したファンドマネージャーらが株価上昇に大きく賭ける勇気を失くしていた時、株価がもうすぐ上昇に転じると読んだ上司は下落相場を経験していない新人のドラッケンミラー氏ならば大きく賭けられると踏んでリーダーに据えたのである。

ということで、ドラッケンミラー氏は25歳にして30歳から40歳で構成されるチームを率いることになった。

上司の解雇とイラン革命

変わり者の上司に大抜擢された新人ドラッケンミラー氏はその後どうしたのか。しかし仕事を始めようと思った矢先、ドラッケンミラー氏を不運が襲う。

彼は次のように続けている。

わたしを部長に据えた変わり者の上司が解雇された。それでわたしは後ろ盾を失った状態で仕事をしていたわけだ。

一回り年上の人々ばかりのチームを率いる25歳となったドラッケンミラー氏だが、部長に据えた上司は何と居なくなってしまった。孤立無援である。

ドラッケンミラー氏はこう続ける。

わたしは不安だった。だがとても幸運なことが起こった。いや、何人かのアメリカ人には幸運ではなかったのだが、イランがアメリカ人を人質に取った。

1979年のイランアメリカ大使館人質事件である。

欧米諸国がイランを西洋化しようとしていた時に、それに反発したイランの人々がイランの皇帝を追放(イラン革命)、アメリカと組んでいた皇帝の亡命を受け入れたアメリカに更に激怒しテヘランのアメリカ大使館の人々を人質に取った。

何故それがドラッケンミラー氏にとって幸運だったのか。彼はこう続けている。

わたしは26歳ぐらいで、突撃しない利口さを持ち合わせていなかった。だからこう思った。何て簡単なんだ、資金を70%を原油株、30%を防衛株にしよう。

リスク管理を知らなかった新人ドラッケンミラー氏

このドラッケンミラー氏の言葉を聞いてどう思ったかだが、機関投資家ならほとんど全員が有り得ないと言うだろう。地政学リスクは読みにくい。間違う可能性もある。だからそのシナリオに全掛けしていた場合、外れてしまえば1回の失敗でポートフォリオの数十パーセントを失うことになる。

だからドラッケンミラー氏はこう続けている。

もっと経験のある人は「何を言っているんだ? 70%と30%のポジションなんて有り得ない。馬鹿げている」と言った。

そして彼自身もこう言っている。

はっきり言って、わたしが当時もし35歳で経験ある投資家だったらそんなことはしなかっただろう。

しかしドラッケンミラー氏の予想が実際には当たったのだから利益は大きかったわけである。彼はこう続けている。

だがわたしのポートフォリオはS&P 500が横ばいとなる中で倍になった。そこからの2年は原油株と防衛株がもてはやされる時代となったからだ。

ソロス氏の教え

前回の話も含めて、この話はドラッケンミラー氏がプロとして普通のリスク管理を知らなかった時期のエピソードである。

だが面白いことに、この頃のドラッケンミラー氏と今のドラッケンミラー氏は共通していることもある。分散投資よりも集中投資が正しいという考えである。

著名投資家のインタビュー集『新マーケットの魔術師』でドラッケンミラー氏は、ジョージ・ソロス氏のもとで働いていた時の次のようなエピソードについて語っている。

ソロスの下で働き始めてすぐのころ、私はドルに対して非常に弱気の見方をしていました。それで、対ドイツマルクで大きなドル売りのポジションを作ったのです。そのポジションは思惑通りの成果を出し始め、私はそれをかなり自慢に思っていました。ソロスが私のオフィスに来て、われわれはそのトレードについて話しました。

「ポジションのサイズは?」と彼に聞かれました。私は、「10億ドルです」と答えました。

ドラッケンミラー氏は自信満々だっただろう。だがソロス氏はこう答えた。

「それでポジションのつもりか?」

そしてソロス氏はドラッケンミラー氏にポジションの規模を倍にするよう奨めたのである。

結論

ドラッケンミラー氏は『新マーケットの魔術師』でこう続けている。

ソロスは、もしそのトレードに強い確信を持っているなら、すべてを賭けて勝負しなければならない、と教えてくれました。貪欲になる勇気が必要なのです。

では、若きドラッケンミラー氏と今のドラッケンミラー氏は同じように1つの銘柄に大きく賭けるのだろうか。

答えを言おう。リスク管理を知らない当時のドラッケンミラー氏と、世界有数のファンドマネージャーである今のドラッケンミラー氏の違いは、失敗した場合にいくら失うかである。

プロは自分の予想に自信を持っている時には大きく賭けるが、仮に失敗した場合にも大金を失うことのないようにポートフォリオを調整しておく。

予想が当たった場合に大金を儲けられ、外れても少しの損失で済むような美味しいトレードが存在するのか? それはなかなか存在しない。だがそういうトレードを工夫して生み出すことがまさにファンドマネージャーの仕事であり、それが出来る人こそが優れた投資家である。

このようにリスクが非対称なトレードの例としては、例えば最近の日本国債の空売りが挙げられるだろう。ドラッケンミラー氏が説明している。

また、ドラッケンミラー氏が個人投資家にアドバイスを贈っている以下の記事も参考にしてもらいたい。


新マーケットの魔術師