世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏が、上昇する米国の株式市場の株価水準についてLinkedInのブログで語っている。
米国株上昇はバブルか
米国株は去年の終盤から引き続き上昇している。S&P 500のチャートは次のように推移している。
この株価水準は割高なのか。ダリオ氏は次のように分析している。
われわれの分析によれば、米国株は大きく上昇したが、それでもバブルにあるとは言えそうにない。
米国株は、株価がもっとも上昇しメディアの注意を引いた一部の銘柄群でさえもそれほどバブル的には見えない。
ダリオ氏の分析は、株式の買い手にとっては有難い見解だろう。ダリオ氏はバブルかどうかを判断するいくつかの測定基準によってその結論を導いている。
素人投資家の流入
ダリオ氏の測定基準はどのようなものか。先ず1つ目は、こちらは個人投資家には有難くない意見かもしれないが、ダリオ氏は次のように言っている。
株価の上昇に引かれてやってくる素人投資家の数はしばしばバブルを計る指標になる。
この基準で言えば日本ではバブルになっていると言えるだろう。だがアメリカでは必ずしもそうではない。
ダリオ氏は次のように続けている。
2020年には新しい個人投資家が人気の銘柄になだれ込み、バブルの様相を呈したが、今では新規参入者の活動は平均よりやや活発なくらいで、とりわけ心配する状況ではない。
アメリカでは投資が流行ったのはコロナ後の現金給付があった時期であり、そのブームはもう終わっているという。2022年に米国株が一度下落した時に振り落とされたのかもしれない。
一方で日本では2022年にドル円が大きく上昇してしまったので、その意味では素人投資家は米国株から振り落とされなかったのだろう。(だがドル円の問題はこれから日本の投資家に降りかかることになる。)
投資家は強気か
もう1つの測定基準はどのようなものか。それは投資家が株価に対して強気かどうかである。
ダリオ氏は次のように述べている。
市場のセンチメントが強気になればなるほど、多くの投資家が既に投資していることを示しており、新たに参入してくる資金が少なく、むしろ売りが多くなるということになる。
一般の人々は、多くの人が上がると思っているものが良い投資対象だと考えがちである。しかし金融業界の人間が考えることは逆である。
株価に本当に強気な人々は既に株式に投資しているはずであり、強気な人が多いということは、多くの人はもう投資してしまっており今後の新規参入者は少なくなると考えるのである。
だがこの基準でも現在の米国株はバブルではないらしい。ダリオ氏は次のように述べている。
現状、市場のセンチメントは中立かやや強気で、バブルの状況ではない。
株式は債券より魅力的か
さて、ダリオ氏の測定基準の中でも一番重要なのは債券との比較である。ダリオ氏は次のように説明している。
この測定方法では株式が債券のリターンを超えてリターンを出すために必要な利益の成長率を計算する。
どういうことかと言えば、株式は例えば国債よりもリスクが高いはずなので、国債よりも大きなリターンが見込めなければ、投資家は株式よりも国債を選ぶだろう。
筆者が一番驚いたのは、この基準でもダリオ氏が米国株をバブルではないと考えていることである。
この測定基準は機関投資家の間ではメジャーなものであり、筆者を含めプロの投資家は誰もがそれを考えている。
だが筆者の知る限り、この基準で考えて米国株がバブルではないと考えているのはダリオ氏だけだ。
例えば米国債の金利を考えてもらいたい。10年物国債の金利は4.19%だから、合理的に考えれば株式はこれよりも大きなリターンを提供しなければならないことになる。
しかし実際にはどうかと言えば、米国株の期待リターンはどう計算しても3%台後半であり、10年物国債の金利をむしろ下回っているのである。
リーマンショックやドットコムバブルの時期を含めても、過去数十年の間に株式の魅力がこれほど低下したことはない。インフレ率など株価に影響しているその他の要素を考慮してもこの結論は変わらないのである。
結論
だから正直筆者には、ダリオ氏が米国株をバブルではないと考えている理由が理解できない。ダリオ氏は計算過程を公表していないので、これ以上の分析をすることもできない。
また、筆者が計算した米国株のリターンは1株当たり利益のアナリスト予想に基づいており、ジェフリー・ガンドラック氏などは以下の記事で、景気後退が来れば市場で想定されているような企業利益は消し飛ぶと言っている。
筆者もそれに同意しているが、景気後退はまだすぐには来ないと考えているので、ガンドラック氏の予想も時期尚早だと考えている。
だがダリオ氏の分析の方が筆者には驚きだ。国債金利との比較で米国株が割高でないと判断できる計算方法があるのならば教えて欲しいものである。