引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏による自社配信動画である。今回はビットコインなど暗号通貨についてコメントしている部分を紹介したい。
政府とプライバシー
デジタル化された社会において、プライバシーは1つの問題である。キャッシュレス決済ではすべての記録が残る。そして他人のそうした記録に興味を持っている人々がいる。
ガンドラック氏は次のように述べている。
近年、いわゆるグローバルエリートたちの間で社会を管理したいという願望が比較的露わになってきている。
例えばマイナンバーカードはそうした潮流の1つである。政治家は銀行口座の動きや、最終的にはクレジットカードの決済履歴まで手中に収め、より効率的な徴税が行えるようにしたいのである。
マイナンバーカードを支持する国民は1つのジョークである。自民党の支持者は肉屋を応援する豚だという表現を聞いたことがあるが、正にその通りだと思う。
彼らの支持する理屈の1つは、サラリーマンは問答無用で税金が天引きされるのに、富裕層はそうではないからマイナンバーカードは富裕層対策なのだというものである。
だが本当の富裕層は自分の資産をマイナンバーカードでは捕捉できない場所に置いているので、マイナンバーカードによって管理されるのは非富裕層だけだ。彼らは自分の手を縛る手錠を支持しているのである。もうすぐどんな理不尽な税金であってもボタン1つで徴税出来てしまうシステムが作り上げられるだろう。
ビットコインと政府の管理
デジタル化によって、世界は政治家のそうした願望に優しい方向に向かっていると言うべきだろう。ガンドラック氏は次のように言っている。
SNSは言うまでもなく、今やあなたのコーヒーメーカーでさえもあなたの会話を盗み聞きするために使うことができる。
今や、マイクやカメラのない場所などそれほどないのではないか。そしてそれは運営会社に保存され、政府がそれを閲覧したければ閲覧することができる。
以前、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏が自分のノートパソコンのカメラをテープで塞いでいるのを見たことがある。ハッキング対策である。
さてビットコインは政府による管理から逃れるためにサトシ・ナカモト氏によって作られたシステムである。だがガンドラック氏は次のように言う。
デジタル通貨は権力を行使したい人々にとって間違いなく有益なものだと見なされるだろう。何故ならば、デジタル通貨はあなたのすべての行動を記録するからだ。
ビットコインはブロックチェーン上で行われたすべてのトランザクションを記録する。更にガンドラック氏にとって不可解なのは、最近上場したビットコインETFである。
ビットコインETFによってビットコインが株式市場でトレードできるようになった。だがガンドラック氏は次のように述べる。
人々がビットコインの通貨としての魅力を語り、ビットコインをトレードできるETFが出来たときにそれがどれだけ素晴らしいかを話しているのを聞くと奇妙に感じる。
何故ならば、その理屈が矛盾しているように感じるからだ。ビットコインの魅力が政府からの干渉を避けることや匿名性にあるのなら、どうして規制されている金融市場でそれを買おうとするんだ? 完全に逆効果に見える。
筆者が付け足すならば、他に不可解なのは身分証明書を提出して暗号通貨取引所を使う人々だろうか。彼らは何をやっているのだろう。
ガンドラック氏はこう続ける。
ビットコインが匿名だとは思わない。ビットコインでは何も隠せない。検察はビットコインを使った犯罪者を簡単に起訴できる。ビットコインは匿名の真逆であり、決済の記録は永遠に残される。
実際の効能が売り文句と反対のときほど残念なことはない。
結論
ビットコインの問題の1つは、匿名性の完全な欠如である。サトシ・ナカモト氏の元々の目的を果たしたければ、現金の方がよほどましである。
暗号通貨が完全になるためには、トランザクションを匿名化するゼロ知識証明と呼ばれる技術が必要になる。ゼロ知識証明のある暗号通貨が本物の暗号通貨である。Moneroなどがこれに該当するが、日本では取引所での取り扱いが実質的に禁じられているようだ。(そもそもまともな暗号通貨利用者は規制されている取引所など使わないが。)
ビットコインは電力消費などその他の意味でも不完全であり、発展途上である。だから筆者のビットコインの長期見通しは、以下のスタンレー・ドラッケンミラー氏のものと同じである。
一方で、ポール・チューダー・ジョーンズ氏はこれからインフレ第2波になればインフレで上がるビットコインを買うべきだと言っている。
こうした見方が矛盾するのかと言えば、一切矛盾しない。タイムフレームが違うからである。短期トレーダーにとっての買い場が、長期トレーダーにとっての売り場であることもある。それが相場というものである。