1987年のブラックマンデーにおける大暴落を予想したことで有名なファンドマネージャーのポール・チューダー・ジョーンズ氏が、Palm Beach Civic Associationの会議で米国の株式市場の見通しについて語っている。
米国株上昇の理由
米国株は引き続き上昇している。株価はこれからどうなってゆくだろうか。ジョーンズ氏は次のように説明している。
今後1、2年で株式市場がどうなるかは、次の大統領が誰かは分からないが、次の大統領が現在のアメリカの財務状況にどう対応するかにかなりの程度かかっている。
アメリカの財務状況がなぜ株価にとって重要なのか。彼は次のように述べている。
何故米国株がこれほど上がっているのか? 何故ドルがこれほど強いのか? 米国には他の国に比べてとんでもない大きさの財政赤字があり、それを行なう政治家がいるからだ。
筆者のようにマクロ(経済全体)を見渡す投資家であれば、何故そう言えるのかがすぐに分かる。
財政赤字と株価
それはアメリカ経済全体のうち、政府が赤字を出しながら支出している分がどれだけを占めているかを考えれば明らかである。
ジョーンズ氏は次のように言う。
現在の財政赤字がいくらか知っているだろうか?
GDPの7.5%だ。考えてみてほしい。7.5%だ。
考えてみてほしいと言われてそれを真面目に考える人がどれだけいるだろうか。政府支出はGDPの一部であるので、政府支出の増加分は(それが誰の役にも立たない公共事業であれ何であれ)そのままGDPに加算される。
つまり、7.5%の財政赤字による押し上げがなければ、現在2%ほどのアメリカのGDPは実際には-5.5%になっていたということである。それがアメリカ経済の本当の姿である。
だがジョーンズ氏が指摘しているのは、それより以前からアメリカの財政赤字は異常だったということである。彼は次のように述べている。
コロナ前の2019年、トランプ政権下で財政赤字は4.8%だった。
こうした数字はマクロ投資の世界では極めて重要だ。
1993年、ヨーロッパはEUを作ろうとしていた。彼らにはマーストリヒト条約というものがあった。財政赤字の上限を3%に定めるもので、それを超えることは許されなかった。
EUに加盟した国はどの国もその制限を守らなければならなかった。
それはGDPの3%の財政赤字は高いという意味である。それは本来ならば-1%の成長率の経済を無条件で2%成長にしてしまうのだから、3%の財政赤字は大きいのである。
アメリカの財政赤字の行方
だが現在のアメリカの財政赤字はそれよりも遥かに大きい。ジョーンズ氏はこう続ける。
トランプ政権が実行した減税は、2025年で期限が切れる。それはこの部屋にいる皆の税率が37%から39.5%に戻るということだ。
それは3,500億ドル財政赤字を縮小する。
だがトランプ減税が期限切れになっても、それでも財政赤字は5.5%だ。
だが自国の財布の紐を自民党に預けてしまった日本人にはよく分かっているだろうが、政治家に財布の紐を預ければ彼らは自分の利益のために無際限に使い続ける。
ジョーンズ氏はこう続ける。
CBOの見通しでは、トランプ減税が失効しても2030年には財政赤字は8%、2050年には年率10%になる。
わたしがバージニア大学で最初に学んだ教授にハーバート・スタイン氏がいるが、彼はこう言った。永遠に続くことの出来ないものはいつか止まる。
だから現在の状況は持続不可能だ。
結論
米国株については、過去40年間の長期的株高の原因が40年にわたる金利低下であって、インフレのお陰でその金利低下が金利上昇に変わってしまったということを以前から指摘してきた。
だが米国株の投資家がもう1つ考えなければならないことがある。インフレになった以上、財政支出は経済救済とインフレ再燃のトレードオフになる。
何故ならば、今でもインフレの原因はウクライナ情勢だというデマを信じている人がいるのかは分からないが、世界的なインフレの原因はコロナ後の莫大な現金給付だからである。
だからこれからアメリカは、財政支出を続けて株価を支え、インフレ再燃を受け入れるのか、財政支出を止めてインフレを抑え、株価を諦めるのかの二択を迫られる。
だから何度も言っているが、金利上昇という観点から見ても、財政支出の限界という観点から見ても、米国株への長期投資は無理筋なのである。
恐らく現在の株高に沸いている投資家には、こうした話は意味を持たないだろう。だが目のある人間は穴に落ちずに済む。穴に落ちない人間でありたいと思う人はどれだけ居るだろうか。