2016年アメリカ大統領選挙の日程が近付いている。有権者による投票日は11月8日であり、それまで候補者のドナルド・トランプ氏およびヒラリー・クリントン氏は当選のために全力を尽くすだろう。
イギリスのEU離脱国民投票の時のように、結果は蓋を開けてみるまで分からないものだが、現状では各候補者の支持率はどうなっているだろうか? また、アメリカ大統領選挙のシステムでは単純に全米の有権者の票の合計で勝敗が決まるわけではないため、その辺りの仕組みを含め、各州の状況を見てゆきたい。
アメリカ大統領選挙の仕組み
先ずはアメリカ大統領選挙の仕組みから説明してゆこう。アメリカの大統領選挙では各州に予め票数が割り当てられており、その州で勝利を収めた候補者がその州の持つ票を総取りできる「勝者総取り方式」となっている。
例えばカリフォルニア州には55票が割り当てられているが、州内の投票がどれだけ僅差であろうとも、州における勝者には55票すべてが与えられることになる。したがって、全米における支持者の比がそのまま大統領選に反映されるわけではない。
各候補の支持率
この点を抑えた上で、RealClearPolitics(原文英語)が纏めている現状における各候補の支持率を見てゆこう。
先ず、クリントン氏がこれまでの世論調査で圧勝している州は以下の7州(括弧内は票数)であり、その合計票数は115である。
- カリフォルニア(55)
- バーモント(3)
- ニューヨーク(29)
- ハワイ(4)
- マサチューセッツ(11)
- メリーランド(10)
- ワシントンDC(3)
一方で、トランプ氏が圧勝している州は以下の9州だが、クリントン氏の支持州に比べ人口が少ない州が多いため、合計票数は49とクリントン氏の支持基盤に比べ票数が少なくなっている。
- アーカンソー(6)
- アイダホ(4)
- アラバマ(9)
- ウェストバージニア(5)
- オクラホマ(7)
- ケンタッキー(8)
- ネブラスカ(4)
- ノースダコタ(3)
- ワイオミング(3)
カリフォルニアの55票、ニューヨークの29票を総取りできる状況は、クリントン氏にとって大きなアドバンテージと言えるだろう。
しかしながら、大統領選はこれらの州だけで決まるわけではない。上記のデータも含め、すべての州の票数を各候補の支持率で分類し集計すると次のようになる。
- クリントン氏支持: 115(カリフォルニアなど)
- ほぼクリントン氏支持: 40(イリノイなど)
- クリントン氏寄り: 105(ペンシルバニアなど)
- 僅差: 108(フロリダなど)
- トランプ氏寄り: 80(ミズーリなど)
- ほぼトランプ氏支持: 41(テネシーなど)
- トランプ氏支持: 49(アラバマなど)
これを合計すると以下のようになる。
- クリントン氏寄り: 260票
- 浮動票: 108票
- トランプ氏寄り: 170票
単純計算で、トランプ氏は浮動票の大半を獲得しなければクリントン氏に勝てない計算となる。
スイング・ステートの様子
アメリカ大統領選挙において、特定の政党の支持が決まっておらず、選挙によって民主党支持と共和党支持に揺れ動く州のことをスイング・ステートと呼ぶ。2016年の選挙においても、やはりこの浮動票が勝負を決すると言えるだろう。
キーとなるのは、スイング・ステートのなかでも票数の多い州、あるいは片方の候補寄りであっても逆転が可能な州などである。
例えば、浮動票のなかではフロリダの29票、オハイオの18票、ノースキャロライナの15票が注目されているが、どの州も僅差であるものの、フロリダはクリントン氏優勢、オハイオはトランプ氏優勢、ノースキャロライナはクリントン氏優勢となっている。
また、クリントン氏寄りの州でも、ペンシルバニアでは支持率の差が4%と逆転の余地があり、20票が揺れ動く可能性がある。一方でトランプ氏寄りのテキサスでも支持率の差が3%まで縮まっており、元々劣勢のトランプ氏がこの38票を落とせば、勝利はほぼ絶望的と言えるだろう。トランプ氏が化石燃料を使うエネルギー産業に好意的な理由はそこにある。
結論
カリフォルニア州(55)とニューヨーク州(29)で支持されるクリントン氏のリードは大きく、また浮動票でもクリントン氏やや優勢となっているため、世論調査の数字だけを見ればトランプ氏の挽回は難しいと言えるだろう。
しかし選挙の結果がそれまでの世論調査と大きく異なるということは珍しくない。6月23日のイギリスにおけるEU離脱国民投票では、世論調査どころか出口調査でもEU残留派が勝っていたにもかかわらず、結果は離脱が支持されたのである。当時の様子を思い出してみれば、EU離脱支持のイギリスの政治家たちでさえ、一度は敗北宣言を出したほどであった。
個人的にはアメリカ大統領選挙が金融市場に大きな影響を及ぼすとは思っていないが、トランプ氏およびクリントン氏の動向については投票日まで逐次取り上げてゆくつもりである。どの国においても政治は茶番だが、国民はそれに付き合うほかないのである。