さて、機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fの季節である。まずはジョージ・ソロス氏が保有しドーン・フィッツパトリック氏が運用するSoros Fund Managementのポートフォリオから紹介する。
ソロス氏のトレーディング
まずはソロス氏のこれまでのトレードを振り返ろう。前回、9月末時点でのポートフォリオは、プット・オプションの買い(下落に賭ける取引)と国債の買いという、非常にリスクオフなものとなっていたことを以前報じている。
今回のポートフォリオでもプット・オプションを使ったトレードは継続されているが、まずはプット・オプションの意味から説明しよう。
プット・オプションとは証券価格が一定以下まで下落した時に、基準となる水準以下の下落分をオプションの売り手が補填してくれるという金融商品である。
つまり、その株を買っている投資家は、プット・オプションを持っている限りその水準以下の下落を気にしなくて良くなる。その代わりオプションの保有者は保有期間に準じて保険料を支払い続ける。いわば株価の下落に対する保険のようなものである。
オプションは現物を持っていなくても単体でも買えるので、その場合は単に基準以下に下がった場合にその下落分が利益になる取引となる。前回までのソロス氏のトレードはそういうものだった。
ソロス氏のポートフォリオ
だが今回公開された12月末のポートフォリオではプット・オプションに現物の買いが追加されているので、前回のポートフォリオより多少ややこしくなっている。
具体的には次のようになっている。
- Nasdaq 100 ETFのプット・オプション: 2.5億ドル分
- Russell 2000 ETF: 2.4億ドル
- 上記のプット・オプション: 3.0億ドル分
- S&P 500: 0.8億ドル
- 上記のプット・オプション: 1.6億ドル分
Russell 2000は米国の小型株指数である。Nasdaq 100にはETFそのものの買い持ちはないが、その代わりにAlphabetやAmazon.comなどの現物株の買いポジションが存在するので、それが代わりなのだろう。
Russell 2000とS&P 500にはETFそのものの買いが付いているが、いずれの場合もプット・オプションの金額の方が大きいので、ソロス氏が引き続き株式市場の下落を警戒しているのは間違いない。
だが去年の終盤から米国株が大きく上昇した結果、このポートフォリオの今の損益がどうなっているかと言えば、恐らくプラスになっているだろう。
何故ならば、オプションは損失が出る場合にも保険料の支払いだけで済む一方で、ETFの純粋な買い持ちからの利益はそのまま貰えるからである。
S&P 500の株価チャートは次のようになっている。
オプションの使い方
米国株は歴史的な割高水準にあるので、ソロス氏も下落の可能性を警戒している一方で、株価の上昇に賭けてもいる。
それはまさに、ソロス氏がこうしたポジションを組成していた去年終盤に筆者が推奨したトレードでもある。
この記事ではプット・オプションの保険料が非常に安い水準であったことを指摘した。その一方で筆者はNVIDIAやウランなど、筆者が推奨してから50%以上上昇した有望な個別銘柄を買い持ちにしてきた。
プット・オプションによって株価下落リスクを実質的に打ち消しながら、保険料は買い持ち銘柄の上昇が十分に支払ってくれるという安全なトレードをしていたわけである。安全とはこういうトレードのことを言うのであって、盲目的な株式長期投資のことを言うのではない。
結論
そしてプット・オプションは今なおかなり安い水準にある。オプションの保険料は株価の上下幅(の市場予想)に比例し、上下動の激しさを反映するボラティリティ指数は次のようにいまだに低水準をさまよっているからである。つまり、オプションの大安売りは続いている。
だが保険の重要性はますます上昇している。ここ数ヶ月の株価上昇は市場の利下げ期待を前提としてきた。だが最近の統計を見れば分かる通り、インフレは再燃しかかっており利下げどころか利上げの可能性を真剣に検討すべき段階に来ている。
利下げを夢見ていた株式市場が利上げを織り込まなければならなくなれば、株価は大幅な修正を余儀なくされるだろう。
もう一度言っておくが、プット・オプションを買うべきである。筆者のように大きく上昇する銘柄を選択できている投資家にとっては、プット・オプションで多少大きなポジションを持っても保険料は買い持ち銘柄の上昇分が支払ってくれるだろう。
米国株の足場がどれだけぐらついているかを考えれば、単に保険というだけでなく、むしろ株価が下落した場合にプット・オプションによって十分な利益が出るほどの規模のポジションを組成すべきである。一応警告はしておいた。