リーマンショック時における米国株、政策金利、住宅価格の推移

2008年の金融危機に関する書物を読み返している。量的緩和バブルの崩壊について、本気でタイミングを計り始めるべき時期が近付いているからである。

いわゆるリーマンショックにおけるバブル崩壊について、ここでももう一度検証しておくべきだろう。バブル崩壊はどのような順序で起きたのか? 崩壊の前兆となった経済統計は何であったか? この記事では当時の株価や住宅価格など、様々なデータを振り返ってみたいと思う。

先ず下落を始めた住宅価格

サブプライム・ローン危機において最初に下落を始めたのは住宅価格であった。当時、アメリカの住宅市場におけるサブプライム・ローン問題については多くの市場参加者が認識していたが、それが世界経済全体に広がるものと想定していたのはジョージ・ソロス氏やジョン・ポールソン氏など限られたファンドマネージャーのみであった。

チャートを見てみよう。以下は当時のS&P 500とケース・シラー住宅価格指数のグラフである。住宅価格が2007年3月にピークを迎えた一方で、米国株の天井は10月と、タイミングに少しずれがある。

2008-financial-crisis-s-and-p-500-and-case-shiller-index-chart

当時の経済状況を分析した文書で公開されているものなかで非常に有用なものはジョージ・ソロス氏のものである。彼はリーマンショック直前に公開した著書『ソロスは警告する』のなかで、株式バブルの崩壊が遅れた状況について以下のように描写している。

2007年春、ついに終わりのはじまりがやって来る。住宅ローン大手のニュー・センチュリー・ファイナンシャル社が、サブプライム問題が原因で倒産したのだ。そこから先は、私のバブルのモデルでいう「黄昏の期間」である。住宅価格が下がりはじめているにもかかわらず、ゲームの終了が読み取れない参加者が、まだ大勢残っている段階だ。

当時、大多数の投資家たちはまだ気付いていなかったが、サブプライム・ローン危機では先ず住宅バブルが崩壊し、それが住宅ローン市場に信用収縮を起こすことで投資銀行などを含む金融システムそのものに波及した。複数の住宅ローンの債権をまとめて一つの金融商品にし、それを投機の対象にするということが欧米の金融機関のあいだでブームとなっていたからである。

利下げが遅れたアメリカの金融政策

サブプライム・ローン危機が単なるアメリカの住宅市場だけの問題だと勘違いをしていたのは、大多数の投資家だけではない。中央銀行もである。

当時、アメリカのコアインフレ率は2%を上回って推移し、アメリカの金融政策を司るFed(連邦準備制度)はインフレを抑えるために金融引き締めを行うべきか、あるいはサブプライム・ローン問題で減速するアメリカ経済を考慮して更なる利下げを行うべきか、2つの問題の板挟みとなっていた。イエレン現議長(当時はサンフランシスコ連銀総裁)の当時のコメントを思い出そう。

FOMCはこのような状況に対し、9月から緩和を行うことで対応してきた。政策金利は3.25%切り下げられ、2%となった。(中略)現在の状況下では、この水準の緩和的金融政策が適当であると考えている。

しかし金利は高過ぎた。住宅ローンの問題は瞬く間に金融システムを通して全世界に波及し、下落してゆくアメリカの経済成長率に応じて政策金利はゼロまで下げられることになる。Fedは後手に回ったのである。

2008-financial-crisis-us-gdp-growth-inflation-and-interest-rates

ここで投資家にとって重要であるのは、利下げは株価の下落を止められなかったという事実である。Fedは2007年から実に5%も利下げを行っているが、その間株価は下落し続けている。以下はS&P 500と政策金利のチャートである。

2008-financial-crisis-s-and-p-500-and-federal-funds-rate-chart

実際に株価が底を打ったのは、Fedがゼロ金利まで利下げをし、更に2008年11月に量的緩和を開始してから数ヶ月後のことであった。

結論

ここから投資家が読み取れる教訓は2つある。最大の問題である住宅価格バブルが崩壊してから株価が下落を始めるまでにタイムラグがあったこと、そして利下げは株価の下落を止めることが出来なかったということである。

世界の金融市場は複雑に絡み合っているが、投資家が注意深く状況を注視すれば、株価暴落のタイミングを示唆する先行指標が何処かに見つかるはずである。そして中央銀行に残された力を、投資家は正確に推測しなければならない。緩和余地がそもそも無い場合にはそれを読み取ることは容易いが、緩和余地があったとしても市場がそれに反応しないケースがあるということを、われわれは2008年に学んだのである。

バブルの天井を正確に言い当てることは常に容易ではない。しかしそのために出来る努力をする必要があるだろうし、またその考察の過程をここで共有したいと考えている。


ソロスは警告する