引き続き、元FOXニュース司会者のタッカー・カールソン氏によるロシアのウラジミール・プーチン大統領のインタビューである。
今回はロシアから欧州に天然ガスを供給するパイプラインであるノルドストリームが爆破された件について語っている部分を取り上げたい。
ノルドストリームの爆破
ノルドストリームはロシアからバルト海を通ってドイツまでを繋ぐ天然ガスパイプラインで、ロシアが欧州に天然ガスを供給する主要な手段の1つだった。だが2022年9月にこれが何者かによって爆破された。
1年半ほど経つが犯人はまだ確定しておらず、様々な説が囁かれている。カールソン氏はインタビューでこの話を取り上げ、誰がノルド・ストリームを爆破したのかとプーチン大統領に聞いている。
プーチン氏はカールソン氏にこう答えている。
もちろんあなただ。
カールソン氏は笑いながらこう返している。
あの日は予定があって忙しかったのです。
誰がノルドストリームを爆破したのか
パイプラインの爆破については西側の政治家から最初にロシアを非難する声が上がった。欧州への天然ガス供給を止めるためにロシアがパイプラインを爆破したのだという理屈であり、ウクライナは明確にロシアの犯行と断定し非難、アメリカやドイツもロシアの責任を示唆した。
欧米メディアでは当初さもそれが正しいかのように報じられていたと記憶しているのだが、今では欧米でもその説はほとんど信じられていない。何故ならば、まず第一にノルドストリームはロシアの国営企業ガスプロムの所有資産であり、ロシア犯人説が正しければロシアは自分の資産を自分で爆破したことになる。
次に、ロシアが欧州への天然ガス供給を止めたければ単に蛇口を締めれば良いのであって、自分の資産を爆破する理由がない。実際、爆破時点ではガス供給は止まっていたのであって、ウクライナなどが主張した犯行動機は意味を為さないのである。
では誰が爆破したのか。欧米メディアでその後報じられた説は2つある。1つはピューリッツァー賞受賞のアメリカのジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏のアメリカ犯行説であり、ハーシュ氏はバイデン大統領の国家安全保障チームがCIAなどと協議してノルドストリームを爆破したと主張している。
もう1つはニューヨークタイムズやワシントンポストが報じたウクライナ説であり、ワシントンポストは爆破に関わったとされるウクライナ軍の大佐の名前を名指しで指摘している。ウクライナはその報道を「ロシアのプロパガンダ」として否定している。ワシントンポストはロシアのプロパガンダであるらしい。
プーチン氏の見解
では当事国であるロシアのプーチン氏はどう考えているのか。彼はカールソン氏を犯人とした冗談のあと次のように言っている。
あなた個人にはアリバイがあるかもしれないが、CIAにはそうしたアリバイはない。
プーチン氏はウクライナ説ではなくハーシュ氏のアメリカ説を信じているようだ。
プーチン氏は続けて理由について次のように説明している。
こうした事例では誰が得をするのかを考えるのが普通だ。だがノルドストリームの件では利害だけではなく、誰に可能だったのかを考えるべきだ。それで得をする人々は数多いだろうが、その誰もがバルト海の海底まで潜って爆破を行えるわけではない。
誰が得をし、誰に可能だったのか。この2つを繋げる必要がある。
もう1人の被害者
さて、利害ということを言うならば、資産を爆破されたロシアの他に被害者はもう1つ考えられる。ウクライナを除くヨーロッパである。
天然ガスを売るためのパイプラインを爆破されて困るのは売り手であるロシアと買い手である欧州である。実際、ヨーロッパはロシア産の天然ガス輸入がなくなったことでエネルギー危機に突入、ドイツの政治家などはガスの節約のため、国民に毎日風呂に入る必要はないのではないかと提案をした。
だがドイツはガス供給の手段がなくなったことに文句を言っていない。ウクライナのためならばドイツの政治家は黙るのである。代わりにドイツ国民は風呂にも満足に入れなくなった。
日本も同じであり、対ロシア制裁によって変わったことと言えば、ロシアのエネルギー資源の売値よりも日本やドイツなどの買値の方である。
ロシアは別の国に売る選択肢がある。だが日本やドイツはロシアから買えなくなったのでより高い買値を受け入れるほかなくなった。アメリカ主導の制裁に参加した国が制裁の一番の被害者となっている。
ドイツの政治家は何故国民の利害のために声を上げないのか。カールソン氏にそう聞かれてプーチン大統領はこうコメントしている。
理由は分からない。だが最近のドイツの政権は自国の利益ではなく西側全体の利害のために動いているように見える。そう考えなければ彼らの行動の理由、あるいは行動しない理由を論理的に考えることは出来ない。
ウクライナと自分の裏金のためならば金を出すが、国民からは搾取する何処かの政党と似ているではないか。