フランスの生産力再建相更迭はユーロ圏の未来を暗示する

イギリスに続きフランスでも内閣改造が行われ、政府の財政緊縮政策を批判していたモントブール生産力再建相が更迭された。モントブール氏は先日、ドイツは「緊縮財政という「妄想」によってユーロ圏経済を破壊している」(フィナンシャル・タイムズ)と発言し、物議を醸していた。左派の中でも雄弁であった彼の更迭により、もとより支持率が17%と低いオランド政権の更なる政権弱体化が懸念されている。モントブール氏が更迭後に反緊縮派の擁護に回り、右派と左派の対立が強まれば、最終的には解散総選挙もありうるだろう。彼の更迭による緊縮派・反緊縮派の対立激化はユーロ圏の結末を暗示している。

ロイターによれば、モントブール氏は会見で「全世界はわれわれにこの馬鹿げた緊縮政策をやめるよう懇願している。緊縮政策はユーロ圏をどんどん景気後退の深みへと沈ませ、ついにはデフレをもたらそうとしている。われわれは緊縮政策が財政赤字を縮小させるどころか生み出していることを認める知恵と政治的勇気を持たねばならない」と述べた。現在の主要な経済学の学説から見れば極めて正論であるはずだが、この正論が通らない事情がいまのユーロ圏にはある。

デフレが懸念されれば金融緩和をし、成長率が低ければ財政出動をする、そしてインフレと高成長の時期にはその逆をするというのが基本的には現在の経済学の通説である。しかし現在のユーロ圏のように、債務者と債権者が同一の国でない場合、この通説を行うことができない。そして両者の対立は行き着くところまで行かなければ解決されないのである。

アメリカの「財政の崖」問題に見られたように、政治的対立における両者の妥協は、崖っぷちまで進まなければ望むことができない。したがって債権者が急に聞き分けが良くなり、債務者に歩み寄るというシナリオは想定できず、今回のフランスの内閣改造のように、債権者が債務者を締め出し、その後債務者同士が団結して政治的圧力を強めてゆくというのが自然な成り行きなのである。ユーロ圏の低インフレ・低成長はこのような対立の極大化のあとにのみ解決されるだろう。

このような不毛な対立の唯一の救いは欧州中央銀行のドラギ総裁 である。総裁は22日、ジャクソンホールのシンポジウムで緩和的な金融政策とともに財政出動の必要性について初めて言及した。金融政策のみでの対応に限界を感じ始めているのである。しかしドラギ総裁は量的緩和を行う権限は持っていても、債権者であるドイツ国民をなだめる力は有していない。

このような政治的対立が協調に向かうためには時間がかかる。しかし対立が崩壊へ向かうための歪みは着実に生じており、今回のモントブール氏の更迭は一つの証左である。スペインの建設会社FCC (BM:FCC)やパリの不動産会社Gecina (EURONEXT:GFC)などを注視しながら、ユーロ圏の行く末を見極めたい。