1月11日、アメリカ軍とイギリス軍がイエメン南部を支配する反政府勢力であるフーシ派に対して爆撃を行なった。フーシ派の背後にはイランがおり、ついに西洋諸国がイランに支援されている組織に直接の攻撃を行なったことになる。
イエメンのフーシ派
これは中東情勢の明らかなエスカレートを示す重大な事件なのだが、日本人の多くはそもそもフーシ派という言葉に馴染みがないのではないか。
フーシ派はイエメンの南部を支配する組織である。イエメンは2015年から内戦状態となっており、フーシ派は以下の緑の地域を支配している。
フーシ派はイランなどと同じイスラム教シーア派であり、赤色の部分は国際的に認知されているイエメン政府によって支配されている。
面積で言えば少数派に見えるが、フーシ派は首都であり最大の都市であるサナアを支配している。国際的に認知されているイエメン政府は、2015年にはサウジアラビアやアラブ首長国連邦の支援がなければ壊滅していたため、政府側が強いというわけでもない。
そもそも当時の政府側の大統領は内戦が始まった時にサウジアラビアに亡命しており、サウジアラビアの支援で領土を取り返すと返り咲いたため、現在のイエメン政府はサウジアラビアの傀儡政権とも言える。フーシ派もイランに支援されているが、少なくとも自分で戦っている。アメリカ撤退前のアフガニスタンと似た構造である。
サウジアラビアのイエメン介入
そもそもイエメンが内戦に突入した原因は、サウジアラビアがイエメン国内にモスクを建てるなどしてスンニ派の布教を始めたことである。
イエメンには元々、イスラム教のシーア派とスンニ派が半々ぐらいで生活していたが、特に宗教対立などが起きることもなかった。
だがサウジアラビアが自分の流派をイエメン国内で布教し始めたことに対してシーア派の人々から反発が起こった。これがフーシ派の始まりである。
それが結局、フーシ派とサウジアラビアが支援する現イエメン政府との対立に発展しており、宗教対立の多くが実際には宗教の問題ではなく他国の介入だということを示す良い例となっている。パレスチナの土地でも、イギリスとアメリカが余計なことをするまではアラブ人とユダヤ人が何の問題もなく共存していたのである。
フーシ派のパレスチナ支持
だからフーシ派はイラン寄りの反サウジアラビアであり、また元々アラブ人が多数派だったパレスチナに欧米の一存でいきなり出来上がった人口国家であるイスラエルに追い出され続けてきたパレスチナ人に同情的なのも当然だろう。
ここで重要になってくるのがイエメンの位置である。イエメンの西側は紅海であり、この細長い紅海を北に行くとイスラエルにたどり着く。
インド洋からイスラエルまでたどり着くにはイエメンの横にある紅海を通らなければならないので、フーシ派はハマス・イスラエル戦争におけるハマス支持から、紅海を通ってイスラエルへと向かう船を襲っていた。
このフーシ派の戦略は、イスラエルに与えるダメージが少ない上に無関係の他国にも影響するというあまり上手くない戦略だと筆者は見ていたが、このフーシ派の行為が結局はアメリカとイギリスによるフーシ派への爆撃を生んだということである。
結論
ハマスとイスラエルの紛争は、パレスチナへの同情から中東諸国に火種が広がりやすい。フーシ派だけではなく、レバノンのシーア派組織ヒズボラとイスラエルの対立もある。
だが火種が広がるのはフーシ派の方が早かったようだ。投資家のジム・ロジャーズ氏がちょうど紅海の情勢について警告していた。「世界最悪のマーケットタイマー」を自称するロジャーズ氏としては、タイミングの合った警告だったと言える。
今回の件ではアメリカとイギリスが直接フーシ派と戦ったという点が重要である。原油市場はまだ動いていないが、どうなるだろうか。