ロジャーズ氏: バブルの頂点で買い始めるのは個人投資家だけではない

ジョージ・ソロス氏と共にクォンタム・ファンドを設立したことで有名なジム・ロジャーズ氏が、バブル崩壊前の株式市場の特性について語っている。

ロジャーズ氏の米国株相場観

現在、米国株のバリュエーションは歴史的な割高水準にある。それについては以下の記事で説明している。

ロジャーズ氏も株価水準は割高だと思っている。そしてその上で次のように指摘している。

わたしはまだ株を空売りしていない。だがバブルの兆候は現れ始めている。

株式市場では一部の銘柄だけが上がり続けている。それらの銘柄は毎日上がる。株式市場には経験の浅い新たな参加者が流入してきている。彼らは「株式市場は楽しい」「投資は簡単だ」と言っている。

日本では、まさに米国株が天井となった数年前頃からつみたてNISAとかいうものが流行り始めたことが挙げられるだろうか。彼らは「長期分散投資をすれば株式投資は安全」を合言葉に、実際に存在するリスクをガン無視して株式投資に励んでいる。

盲目的に株式を買うだけで儲かるならば投資は簡単ではないか。ロジャーズ氏は次のように言っている。

投資が簡単だということはわたしのキャリアで一度もなかったのだが。それが誰かにとって簡単だと誰かが言っているなら、それは多分何か良からぬことを意味している。

向こう見ずな投資家

そうしたリスクをガン無視した素人は、確かに個人投資家に多い。だが金融業界にいる人間ならば誰もが知っているだろうが、そうした人々は個人投資家だけではない。

司会者が「あなたは個人投資家の動きを心配していましたね。個人投資家はいつもパーティーに遅れてやってきて、それがバブルの天井のサインとなる」とロジャーズ氏に言うと、ロジャーズ氏は次のように返している。

個人投資家だけではない。誰でも同じ状況になりうる。もし本当に個人投資家だけがミスを犯す投資家なら良かっただろうが、実際にはわたしたちの誰もがミスを犯す。

最初のやり取りで注目して欲しいのは、ロジャーズ氏は一度も「個人投資家」とは言っていないことだ。

金融業界にもパーティーに遅れてやって来るトレーダーはごまんと居る。例えばロジャーズ氏は以前、金融業界に居た「26歳の若者」について語っている。

また、本当に優れた投資家であってもパーティーの天井にやって来て大損することもある。

例えばクォンタム・ファンドにおけるロジャーズ氏の後輩で、マーケットタイミングに関して世界屈指の嗅覚を誇るスタンレー・ドラッケンミラー氏のキャリア最大の失敗は、恐らく2000年のドットコムバブルでバブル崩壊を予想しながら天井を掴んでしまったことだろう。

結論

確かに個人投資家の多くは、何も考えずに多くの人が行なっている投資をリスクの少ない投資だと無根拠に誤認している。

だが優れた投資家も長いキャリアの中には同じ状況に陥ることもある。

プロと素人の違いは何か。まず少なくともプロはパーティーに遅れてやって来てしまうことの無いように細心の注意を払っている。素人のほとんどはそもそもパーティーに遅れてやってくるという概念自体を知らない。彼らは何も考えていない。

だがそれを避けるように細心の注意を払っているプロであってもたまにはそこに嵌ってしまうわけである。であれば、何も考えてない素人が何故それを避けられると思えるのだろうか?

また、ドラッケンミラー氏のように自分の投資能力に自信のある人間は自分の失敗体験を気にしていない。投資家はすべてのトレードで勝たなければならないのではなく、平均で勝てば良いということを理解しているからである。実際、彼はドットコムバブル崩壊で大損した2000年をプラスのリターンで終えている。

ドラッケンミラー氏は上司だったジョージ・ソロス氏について、著名投資家のインタビュー集である『新マーケットの魔術師』で次のように述べている。

ソロスはトレードで失敗することもわたしがこれまで会ったトレーダーの中で一番上手い。

彼は1つのトレードにおける勝ち負けなど気にしない。1つのトレードが上手く行かなくても他のトレードで自分が勝てるという自信があるからだ。

著名投資家の言葉と経験には知恵が満ちている。個人投資家のつみたてNISA口座には何が満ちているのだろうか。


新マーケットの魔術師