レイ・ダリオ氏が語る米国利上げの危険性と日銀の追加緩和が効かない理由

世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運営するファンドマネージャー、レイ・ダリオ氏がCNBCの主催するDelivering Alpha会議(原文英語)でアメリカの利上げと世界経済に残された金融緩和の手段について語っている。世界中の投資家が米国利上げの影響と金融政策の先行きについて注目する中で発せられたダリオ氏の意見は、多くの投資家にとって傾聴に値するだろう。

米国利上げは間違い

先ずは利上げの話題から始めよう。JM MorganのダイモンCEOがFed(連邦準備制度)は利上げすべきだと発言したことについて以下のように語っている。

間違いだ。わたしは間違いだと思う。現状では、上下方向のリスクはあまりに非対称だ。もし経済が加熱しすぎた場合、世界経済であれアメリカ経済であれ、それを容易に減速させることが出来るということに疑いの余地はない。一方でインフレ圧力の弱さは世界的な問題だ。インフレ率や人口動態などの要因を見れば、リスクがかなりの程度ダウンサイドに偏っていることが分かる。

ここの読者には周知の通り、アメリカ経済は減速している。長年の量的緩和が奏功し2015年には2%を超えて推移していた経済成長率も、今では1%に近い水準まで落ち込んでいる。

そして世界経済にとっての問題は、金利が世界中でほとんどゼロに近い状態にあるため、これ以上金利を下げて緩和を行うことが出来ないということである。以下はアメリカの政策金利の長期チャートであり、見事に下がり続けてきたことがはっきりと読み取れる。

2015-11-us-federal-funds-rate-historical-chart

世界に残された追加緩和の余地

ゼロに達した金利はこれ以上下げることが出来ない。理論的にはマイナス金利を導入することは出来るが、行き過ぎると預金者はお金を銀行から引き出そうとするだろう。だからマイナス金利の影響力は限られ、また預金者ではなく銀行にそれを押し付けるとしても、マイナス金利の下限は存在する。

利下げ余地が無くなれば実体経済はどうなるのか? ダリオ氏は以下のように説明する。

これ以上利下げが出来ないということは、資産価格を支える能力の一つの限界に達したということであり、また人々の債務への利払いを軽減して消費を促す景気刺激の限界に達したということである。

また、更に悪いことに、限界に達したのは金利だけではない。ダリオ氏は中央銀行に残されたもう一つの手段、量的緩和の効果も既に限られたものになりつつあると主張する。

量的緩和の効果も限られている。何故ならば、量的緩和がどう機能するかと言えば、中央銀行が先ず国債を買い、そして国債を売った投資家は別の何かを買おうとする。量的緩和はこうして資産価格に働きかけたが、今ではあらゆる資産クラスで価格が既に上昇してしまった。

ダリオ氏の議論は単純明快である。これまで経済を支えてきた緩和が既に力尽きているのであれば、世界経済はこれまでよりも低い経済成長率に甘んじるしかない。

これまで世界経済を支えてきたこれらの力は既に存在しないのであり、だから問題はわれわれが債務の長期サイクルの終わりに居るのかどうかということだ。

債務の長期サイクルとはダリオ氏の投資理論の根幹をなす概念であり、何故世界中がデフレになりつつあるのかを明快に説明する理論である。以下の記事で紹介しているので、未読の読者は是非目を通してほしい。

また、緩和余力についての国際比較では、当然のことながら日本が一番悲惨な評価を受けている。ダリオ氏は以下のように語る。

成長を産み出す緩和余力がどれだけ限られているかという点において、日本はヨーロッパより一歩先にいる。ヨーロッパはアメリカより一歩か二歩先にいる。そしてアメリカは恐らく中国より二歩先にいる。世界経済はこれまで享受してきた成長率よりも低い成長率で我慢するほかないだろう。

日本の投資家が一番身に沁みていることだろうが、日銀の緩和余地は限られている。日銀に残された追加緩和の手段についてはヘリコプターマネーを含め以下の記事で網羅して説明したが、特に為替に働きかける手段が限られていることに異論の余地はない。

世界経済の先行きは暗いが、それは必ずしも投資家にとっても同じであることを意味しない。ダリオ氏は次のように投資家に問いかける。

市場環境は常に興味をそそられるものであり続けるだろう。そして問題は、あなたが投資家としてどのような状況から価値を産み出しているのかということであり、一番重要なのは、市場環境が悪い時にどうやって利益を産み出すのかということだ。

読者はそれぞれ今後やってくる不況に対応する手段を用意出来ているだろうか? わたし個人の意見で言えば、それは先ず金であり、そしていずれ暴落する株式市場と上手く付き合ってゆくことである。その具体的な方法については8月に書いた以下の二つの記事で詳しく説明しておいたので、そちらを参考にしてほしい。